ユーフラテスの響き

先週7月24日のことですが、外囿祥一郎さんのソロ・アルバム「リアル・ユーフォアニアムIII 《ユーフラテスの響き》」がリリースされました。リアル・ユーフォニアムと銘打ったシリーズの完結編であり、外囿さんの音楽世界がさらに深く表現されています。


リアル・ユーフォアニアムIII 《ユーフラテスの響き》
2010年7月24日発売 KOCD-2528 定価2,940円(税込)
ユーフォニアム:外囿祥一郎
ピアノ:藤原亜美
 
1.ロマンス/グスタフ・コーズ
2.ユーフォニアム協奏曲/アミルカレ・ポンキエッリ
3.三つの肖像/北爪道夫 [委嘱新作]
4.ワクワク島周遊記/伊左治直 [委嘱新作]
5.ユーフラテスの響き/池辺晋一郎
6.きみの上には花ばかり〜歌曲集「夢のたたかい」より/フェデリコ・モンポウ
7.フルート・ソナタ Es-Dur BWV 1031/J. S. バッハ

このアルバムの聴き所として、楽器の違いがあります。前2作のリアル・ユーフォニアムで外囿さんはYAMAHAを、ピアノの藤原さんはホール備え付けのスタインウェイを使用してきたのに対し、今回のユーフォニアムはBesson Prestige、ピアノはベーゼンドルファーを持ち込みで使用しています。
この楽器の選択によって、音のキャラクターに明らかな違いが生まれました。前2作では響きと音楽がシャープでアグレッシヴだったのに対し、今回は深みと温かみが加わった豊かな歌心が全面に現れています。
以前からこの二人のコンビによる「ユーフォなのかピアノなのか分からない」ほど響きとフレーズが溶け合った奇跡の様な音楽は、時にはピアノの伴奏をユーフォがしているかの如く金管楽器と鍵盤楽器のテクニカルな境界線が高次なレベルでボーダレスになりますが、今回の楽器のセレクトにより、人間的な響きというか、テクニカルの高さを忘れて、ただただ音楽に没頭して聴ける感じというか、そういう至福の体験をすることができます。
そして、この取り合わせを存分に発揮しているのがアルバムの最後に納められているバッハです。これは以前のボクの以前の日記でネタバレしないように書かせていただいてますが、この演奏を聴いているとこれがユーフォニアムとピアノによって演奏されているのを忘れてしまいます。先日テレビでフルートのエマニュエル・パユとチェンバロのトレヴァー・ピノックが同じ曲を演奏している模様を鑑賞しましたが、全くそのレベル! これはユーフォがフルートを、ピアノがチェンバロを模倣しているとかいう低いレベルの話ではなく、音楽の到達点がその高次なレベルに達しており、楽器のセレクトが音楽家の翼をさらに広げる力を与えている、ということです。これはすごい事です。
今回、デザインの側からの工夫としましては、通常のカラー印刷(CMYKの4色)とは違う点です。通常シアン版(C版)の部分を金のメタルカラーに割当て、シアンインク抜き(マゼンタ・イエロー・ブラックの3版)で写真が成立するように画像の調整が施されています。これは「セピアトーンでポートレイトを表現してほしい」という外囿さんの希望と、予算面で「多色刷りや特殊加工する予算が結構厳しい」という懐事情をいっぺんにクリアするために考えた必殺技です。メタルインクと言うのは通常の特色インクと比べ倍の値段がかかります。つまり通常の4色刷りにメタルインクを使うと6色刷り相当のお金がかかるのです。そこでC版をメタルインク版用に充ててしまえば「MYK+メタル(2色分)」で通常の5色刷りと同じような値段になり、なんとか予算内に治まってくれたという次第です。まぁ手に取る人にはどうでもいい話ですが、我々もなるだけお手頃な値段でCDを皆さんにお届けすべく、見えないですがコスト削減の努力をしておりますよ、という小話でございます。
さてさらに個人的な話をさせていただきますと、外囿さんとはこれで11枚目のアルバムデザインのお仕事をご一緒させていただきました。
確か1枚目はトロンボーンの山本浩一郎さんとダブルネームで出された《Famiry Tree(KOCD-2513)》だったと思います。この頃は直接の面識がなかったのですが、次に作成した東京佼成ウインドオーケストラのアルバム《フェスタ(KOCD-2909)》の辺りから意気投合し、アルバムだけでなく、リサイタルや、名刺や焼き肉(?)など、何かと彼の活動をサポートさせていただいています。
外囿さんのアイデアはいつもボクの想像を超えていて、例えば一見デザイナー的には「そんな無茶な」と思えることを言い出すのですが、腰を据えて彼の言う通りにしてみると「アリかも」と頷けることが多く、その度に新たな扉が開け、面白い方向に転がっていきます。実に刺激的なのです。
ボクが四国の田舎にいた子供の頃、外囿さんと(行動パターンが)よく似た友達がいて、いつも彼に引っ張られて新しい世界へ向かう喜びを得ていましたが、今は外囿さんがその友人の様にボクを思わぬ新しい場所へ連れて行ってくれます。
この歳になっても、常に前を走って(しかも世界最先端!)「付いてこいよ!」と言ってくれる人がいることは幸せなのだと思っています。
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