雑誌「アインザッツ」が届いたので雑感と、他の吹奏楽雑誌についてもちょっとまとめてみる。


さて、学研パブリッシングの《ティーンのための吹奏楽雑誌「アインザッツ」》の発刊号が業界各所で話題となっております。ボクとemixは今回付録である天野正道さんの「ウィンクルム」フルスコアの制作に携わらせていただきましたので、見本をいただいた次第です。(写真右から今回の付録となった「ウィンクルム」のパート譜や参考音源が収録されている山本寛さんの小説「アインザッツ」、本誌、その上に載っているのはタイムスリップグリコのおまけになった学研の「4年の学習」ミニ復刻版、付録のウィンクルムのスコア冊子、同じく付録の渡辺麻友さんのポスター)。

これがその担当した付録です。小説アインザッツの「ウィンクルム」の回の扉絵を再構成しました。この楽曲は作中で主人公が父親から手渡される秘蔵のスコアとして登場しますので、その雰囲気を意識して「背側を造本テープでとめて作った風」にしてあります。

スコアの1ページめ。総扉になってますが編成表でもあります。

スコアの最終ページのあとは佐藤正人さんによる楽曲解説と練習のヒントが掲載されています。

こういう付録はバンドジャーナルさんが長いノウハウを持っていらっしゃりますので、吹奏楽ファンの方にはお馴染みのものかと思いますが、もう一つの付録(これはボクは関わってません)である渡辺麻友さんのポスターは業界的にも衝撃的だったようです。

かなり大きいし、アイドルや女優さんがユーフォニアムを抱えたポスターってのは午後の紅茶の蒼井優さんでのノベリティでもなかったんじゃないかしら。モチロンこれは単発の表紙連動付録ではなくて、内容にも絡んできます。

このアインザッツは、現在出版されている管楽器・吹奏楽雑誌と大きく異なる編集方針が見られ、非常に興味深い誌面作りになっています。かつて吹奏楽や管楽器の雑誌で10ページにもわたって現役の人気アイドルが吹奏楽について語る雑誌なんてあったでしょうか? なかったよねー。内容はプロの管楽器奏者ではないので深いものではありませんが、学校生活や仕事での楽器の関わりについて素直に受け答えしていて、同年代の子たちにも共感出来るであろう部分も見られ、興味深い記事になっています。

もうひとつがこのページ。ボクの周辺でも賛否両論あった「コーデ」のページ。年頃の女の子なら気になるファッションのページを堂々と取り上げたのもこの雑誌が初めてでしょう。今後読者の声を聞きながら、さらに吹奏楽部の子たちに相応しい内容が展開されると予想されますが、第一に子供の興味を引かせる誌面展開は徹底しています。
他のページは他誌でもお馴染みのHow toや学校紹介やグッズ紹介に加え、小説、マンガなど、子供にとって読み易い内容に絞り込まれています。

これは、学研という出版社が持つノウハウを結集して作られた雑誌です。かつて子供たちの雑誌の代表格であった「科学」と「学習」、アニメーション雑誌である「アニメディア」、ファッション誌「ピチレモン」、アイドル誌「BOMB」などで得た手法を吹奏楽部で頑張る子たちに向けて編集された文字通り《ティーンのための》雑誌です。
このスタンスで編集されていた吹奏楽雑誌をボクは知っています。それは1999年に休刊となった「バンドピープル」です(ボクはこの編集部で編集アルバイト兼イラストレーターをしていました。)。実は「アインザッツ」はかつてのバンドピープルで編集長をされ今はバンドパワーという吹奏楽のサイトを運営されているkotaroさんも少々立ち上げに噛んでおられます。編集後記にも彼の感無量の言葉が添えられています。
この雑誌発刊の発端はアニメディア誌に掲載され、後に単行本になった山本寛さんの小説「アインザッツ」から始まりました。この小説が執筆されるにあたって取材先などで悩んでおられた担当者(現・雑誌「アインザッツ」のN編集長様)が、兼ねてよりアニメディア関係のムックや紙面デザインを度々担当していたボクが「吹奏楽の業界に明るいデザイナーらしい」という噂を聞きつけて相談に来られたのです。ここで話は結構盛り上がり、ボクがかつてのアルバイト先の「バンドピープル」編集長だったkotaroさんや別件で知り合ったブラストライブの編集長を紹介し、kotaroさんが天野正道さんを紹介し、天野さんが〜、という風に繋がりがドンドン広がっていったのです。この勢いが原動力となりN編集長はどんどん吹奏楽の世界に魅了され、雑誌発刊の企画にまでに至るのですから、世の中とは面白いものです。
 
「アインザッツ」の創刊によって、管楽器・吹奏楽の雑誌の空いていたピースがまたカッチリはまった感があります。現在、特に協会などに所属しなくても書店や楽器店で手に入れることの出来る雑誌(個別楽器専門誌は今回は除く)には「バンドジャーナル」「パイパーズ」「ブラストライブ」「ポコアポコ」そして「アインザッツ」があります。それらのスタンスをまとめてみましょう。
 
バンドジャーナル(音楽之友社)
言わずとしれた吹奏楽総合誌として君臨する顔役。吹奏楽指導者必携。創刊は1959年。創刊号から「若い力:高田信一/秋山紀夫編」の吹奏楽譜が付録に! 吹奏楽コンクールで上位入賞を目指す学生や指導者はこの紙面に載る事が何よりもステイタス。2012年1月号の伊藤康英さん校訂版「ホルスト:吹奏楽のための第二組曲:I.マーチ」は必携。吹奏楽コンクール記事が注目されがちだが案外骨太な提言やアカデミックな記事もあり、編集部の眼力に敬服する。

Band Journal (バンド ジャーナル) 2012年 01月号 [雑誌]

Band Journal (バンド ジャーナル) 2012年 01月号 [雑誌]

 
パイパーズ(杉原書店)
プロフェッショナルやハイアマチュア管打楽器奏者が愛する専門誌。日本や海外のトッププレーヤーや(プロ向け)コンクール上位入賞の若手のインタビュー、古典的なアーカイヴから、専門的な楽器に関する情報やレビューなどが載る。この雑誌に掲載されるプロプレイヤーは一種のステイタスであるともいえる。この雑誌を楽器ケースの傍らに置くだけで「出来るヤツ感」が醸し出せるアイテムとしても活躍。表紙を担当されているカメラマン雨宮秀也さんはku:nelの写真も撮影も担当されている実力派。
パイパーズ 2011年12月号 No.364 [雑誌]

パイパーズ 2011年12月号 No.364 [雑誌]

 
ブラストライブ(ブラストライブ)
ジャンルにとらわれないブラスの雑誌としてスタジオ・ツアーミュージシャンからオケ奏者やガールズバンドから、趣味のおじいちゃんバンドまで網羅する。そのキャパシティレンジ、特におっちゃんやおじいちゃんという年齢上方向のアマチュアに光を当てた功績は大きい。ネット連動の付録などもあり、チャレンジングな一面もある。
楽器族。 ブラストライブ 2011 Vol.21

楽器族。 ブラストライブ 2011 Vol.21

 
ポコアポコ(オトノキ企画)
業界唯一のフリーペーパー。全国の楽器店などに配布範囲を拡大中。独自の作風を持つミニコミ誌だと思っているとトンデモなくメジャーな管楽器奏者が連載をしていたりしてなかなか侮れない。フリーペーパーのため、広告主とのタイアップ記事も目立つが、なんせタダで手に入るのだからいいじゃないか!

 
アインザッツ(学研パブリッシング)(月刊アニメディア別冊)
この冬アニメディアの別冊として発刊。吹奏楽部で頑張る全国の中高生(主に女子)をメイン読者としている編集方針は上記の通り。永らく途絶えていた子供向けの吹奏楽雑誌として、大手出版社のノウハウと切り口を駆使して新風を巻き起こすことを期待。
ティーンのための吹奏楽雑誌 アインザッツ 2012年 01月号 [雑誌]

ティーンのための吹奏楽雑誌 アインザッツ 2012年 01月号 [雑誌]

 
という風にイイ距離感で業界誌が増え、それぞれが独自の切り口を持っている事はとても好感が持てますし、良いライバルとして切磋琢磨して時に競い、時に手を組んで業界を盛り上げて行ければ、なかなか楽しくなるのではないかと思います。