「ワーヘリと仲間達」デザイン制作ノート


芸術作品が時代に先駆けて現われるとき、
時代は芸術の後ろでもたついている。
Lorsqu'une œuvre semble en avance sur son époque,
c'est simplement que son époque est en retard sur elle.
 
ジャン・コクトー(雄鶏とアルルカン,1918 より)
Jean Cocteau(Le Coq et l’Arlequin, 1918)
 
2015年2月17日、虎ノ門のJTアートホール アフィニスにて「Piany改めワーヘリと仲間達」公演があり、私はデザイナーとしてフライヤ、チケット、パンフレットのデザインを担当させて頂きました。
外囿祥一郎・次田心平・天野正道・伊左治直・中川俊郎・山田武彦という、時代に愛される天才たちの自由なスタイルの公演に何かしらの形でご一緒させて頂けることに光栄を感じながら、楽しく制作させていただきました。ここにデザイン制作の話を交えながら先日の公演について書いていきたいと思っています。
最初にお見せした写真は2014年12月10日に新宿某所(MCで外囿さんが場所を喋っちゃいましたが)で行われた本公演の作戦会議の模様です。私のiPadで撮りました。
さて、これは何をしているのかと言うと、超若手(22歳!)の有望な作曲家・西下航平さん(この写真の右下)によるアンコール曲《Casa Bella》の元となった紙ナプキンの合作(後述)を皆で囲んでいる所です。この光景をボーッと眺めながら何かに似ているなぁと考えていたら、かつてのフランス6人組がパリのカフェでヤンヤと音楽談義に興じている姿でした。
冒頭の言葉は私が公演パンフレットの冒頭に勝手に挿入したコクトーの言葉です。初出はコクトーがエリック・サティの評論として書いた「雄鶏とアルルカン」の中の一節ですが、コクトーは彼の愛したフランス6人組についても全く同じ感想を持ったことでしょうし、コクトーが現代に現れてこの光景を見たら、全く同じフレーズを叫んだに違いありません。宴席での作戦会議を設定するのが大好きな外囿さんと次田さんですが、こういう場が創れること自体が才能としか言いようがありません。


紙ナプキンの合作紙ナプキンの合作
 





これがその紙ナプキンの合作です。中川さんの書いたバス課題を、下から順に書き加えていったもの。最後が西下さん。名人しか居ない5人指しの将棋(そんなのがあればですが)の盤前に突然座らされた新人の気分だったでしょうが、物怖じせずに書き上げたのは流石です。
こういう自由な雰囲気の中で生まれた紙ナプキンの合作は、ベロンベロンで会議を終えた面々は下のコンビニでコピーを取って皆の記念となりました。原稿そのものは多分中川さんがお持ちになっていると思いますが、将来クリスティーズなんかに出品されたらトンデモない高値がついたりして(笑!)
流れでまんまとコピーを手に入れたデザイナーの私が「シメシメ、パンフレットの素材が出来たぜ!」と思ったのは皆の想像に難くないと思います。
そんな訳でパンフレットのメンバー紹介と曲目解説の地紋で使用しましたが、それが西下さんによってアンコールのモティーフになるとは最後の最後まで知らず、終わってみれば、地紋自体が出演者のスタンスのみならずアンコールの暗示になっていた、しかも、そういう風になると誰も打ち合わせなしにこうなってしまうというのは、私のような若輩にまで見えざる手に動かされていると身震いしたものです。
技術的にも内容的にも高度な音楽を、普段コンテンポラリを鑑賞される機会もあまりない方にも楽しんで聴かせられる力量というのは、作曲家・演奏者共々、やはり相当なものです。
一見分かり易い天野さんの作品(初夏のそよ風・グルック、グルック、グルック!・ジャズイディオムによる3章)の中には実はとても音楽的に高度な内容が含まれていますし、山田さんのユーモアの中の諧謔(電池・区民の日)、伊左治さんの暢気な抒情性と知性(午後のタツノオトシゴ)、中川さんのトボケた味の裏にある強烈な時代への警鐘(Mr.P.・M.M・The Billows)など、一筋縄でいかない難曲たちを、作曲家と共に事も無げに演じてしまう外囿さんと次田さんがいる訳です。
こういった関係性をいかにデザイン上にスッと示せるか、が今回の課題であり、発想の原点でした。
そこでフライヤでは写真を使って表現していたワーヘリと仲間達の輪(これが最初のモティーフ。作戦会議の時には出来ていた)が、パンフレットの表紙では大きな網点で表現されるグラデーションに変化し、プログラムページで地紋として広がり、出演者紹介で広がった地紋の中から《紙ナプキンの合作》が現れ、ノートで白地になり、と徐々に音楽として姿を明確にしていくストーリーを展開してみました。しかもあくまでも彼等を引き立たせる(影の)スタンスは守りながら。そういうデザインのメタモルフォーゼや文字組には変化を出す分、書体使いは難解さを省きました。
割と上手くいったと思っています。
最後に外囿さんに許可を頂いたので、フライヤと当日のパンフレットの画像を掲載させていただきます。