好々爺

先日、とある市民オーケストラのコンサートを聴きにいきまして。
ボク開演直前に入ったので、かなり前列の端に座って聴いていたんですね。
で、後半のプログラムに移る前の休憩で、
さらにボクの前に座っていた真っ赤なお召し物の小母様のところに
一人の好々爺が寄ってきまして。
どうやら小母様とお知り合いらしく、
小母様の席を一つ中に入れさせて、ちゃっかり隣に座っちゃいまして。
で、それからマシンガントークです。
 緑内障の検査に行ったら白内障も出てて手術する云々
 その病院の先生との出会いが云々
 最近マイブームの健康体操が云々
止まりません。
少しお耳が遠いのか、どんどん声が大きくなります。
やがて休憩も終わって楽団員がステージに入ってきても
話はヒートアップしています。
殆ど一番前の席なので、客席全体に響き渡るんです。
好々爺の病歴自慢とリタイヤ生活の数々が。
指揮者が入ってきても止みません。
ステージマネージャーさんは話が済むのをおそらく待っているのですが
当の好々爺は話に夢中でまったく周りの状況に気づいておらず
もうホールは好々爺の独演会状態です。
まったく話は止まりません。
指揮者がついに根負けして演奏を始めてしまいました。
カルメン前奏曲なので、ガツンと好々爺の話を掻き消しました。
好々爺、おそらく曲が始まったら止めるつもりだったのでしょう。
で、一曲が終わった瞬間からすかさず独演会再開です。
しびれを堪えた周囲の小父様たちの咳払いも諸共しません。
好々爺盛り上がる盛り上がる。
今は最近出かけている無料コンサートの情報入手のノウハウを
小母様に伝授しているところです。
小母様は流石に恥ずかしくなってきたのか生返事です。
独演会を掻き消さんと周囲の咳払いもヒートアップしますが
好々爺まったく気付かない。
指揮者は次は静かな出だしの曲なので始められない。
(アルルの女のメヌエット)
そこでやっとホールスタッフの方が飛んできて注意を促しました。
で「エ、そうなの? ごめんなさい」となってやっと独演会は終わったのですが
小父様は話したくて仕方がない。
隙あらば話を再開させようと目論見ますが、スタッフの目も光ってるし
指揮者も絶妙のタイミングで曲を始めてしまうので、もう喋り出せない。
で、本プロも終わったのでさぁ喋れるぞと始めたら
アンコールはカヴァレリアルスティカーナの間奏曲。超静かな曲です。
流石に最後は周りの圧力が勝り、次第にトーンダウン。
終演後は小母様もソソクサと退散。いやー恥ずかしかったでしょう。
ボクも楽屋に知人の挨拶に行くために裏にスッと抜けたため
その後残された好々爺の運命がどうなったかは知りません。
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ボクはこのエピソードをケシカラン人がいるもんだとか、
絶対に許されない行為だとか
そういう風には思っていないんですね。
マナーとしては勿論NGだし、批判されても仕方ない行動だけど
これも含めて市民楽団の演奏会の一風景だなぁと、思ってしまいます。
いろんな人がいるなぁと。
こういう場合は「演奏が始まりますから静かにしてね」と、
その都度主催者側が伝えればいいと思っています。
度が過ぎたと感じた場合の対処は主催者の判断ですし。
そして
こういう方々でもオーケストラの演奏会を楽しめる裾野を広げ、
文化の底上げをするのも市民楽団の役目なのだと思っています。
リタイア後に趣味として音楽に親しもうと考えている方々にとって
市民楽団の演奏会はもってこいです。
生涯学習というのであれば、
どの時点で学びをスタートさせてもいいわけです。
マナーの遵守が先行して彼らをすぐに締め出してしまうのではなく
現場でマナーを覚えていければいいのだと思います。
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で、楽屋裏で「前の席の好々爺がご迷惑おかけしました」
と話したところ大爆笑。
あそこまで喋り倒すお客は始めてのことでした。