ランチ異邦人

フィットネスの後、ふらふらと昼メシ処を彷徨い、最後にここでいいか〜と入った一件の居酒屋。おっちゃんがフロアで配膳をし、おばちゃんが厨房にいて、壁は店の知り合いの絵描き作らしい猫のイラストと地元サッカー選手のサインとビールメーカーのポスターで埋め尽くされ、棚の上のテレビでは昼の番組がかかっている、洒落とは無縁の昭和感に溢るお店だ。

ボクはハンバーグと豚生姜焼きの、emixはエッグハンバーグの定食を頼むと、まず、雑な樹脂製の味噌汁椀に入ったスープが出る。

テレビはキユーピーがたったの3分で「鶏肉とカリフラワーのオーブン焼き バルサミコソース」なんて料理を教えている。

バルサミコ云々と比べたら味噌汁椀の玉子スープなんざ洒落のシャな字もねーぜ、と思ってスープを啜る・・・「!!!」 想像してた味と違う。なんか知らんがシンプルなのに豊かで美味い。と、時を置かずしてライスと定食がやってきた。

隣では同僚らしいサラリーマンが他の部署のやり方についてブーブー文句を言っている。その奥では4名のおっちゃんたちが席にガヤガヤと着こうとしていた。

皿の見た目はお洒落とは無縁だ。ハンバーグ、生姜焼き、サラダ・・・あえて言及するならクルクルと小さな円錐に巻き上げられた添え物のナポリタンが唯一のチャームポイントである。

隣の同僚ズはダブルハンバーグ定食を頼み、続けて俺たちの部署の優秀さについて熱く語る。

ボクはまず生姜焼きから行く。何万回も見てきた世に二つとある普通の生姜焼きだ。ところが、口に含んだポークちゃんは見た目に反して上品なお味でプリプリなのだ。では、では、その横にあるフツーの茶色いデミグラスソースがかかったハンバーグはどうなのだっ! と口に運ぶ。

・・・・・拡がるのは絶妙なスパイス加減とブランデーで下味された豊穣なハンバーグの空と大地が触れ合う彼方である。ここはどこにでもある昭和な居酒屋のサラリーマン向けオッサンランチではなかったのか! いや、過去からの旅人を呼んでいる道だ(もう意味不明)。


テレビ番組は変わってマチャミが熱海を旅している。同僚ズは日課の様に目の前の定食をムホムホと攻めている。おっちゃんたちはゴルフコンペの話で盛り上がっている。ボクのハンバーグも残り少なくなり別れるのが寂しい。

あなたにとって私たち、ただの通りすがりかもしれない。

ちょっと振り向いてみただけのランチ異邦人。