曼珠沙華

「この花が咲いちょる下には死人が埋まっちょるんじゃと」
学校の帰り道、道端で拾った枝切れでそこいらのエノコログサ*1をバシバシしばいていたナガタくんが、畦の曼珠沙華の前でそう言って止まった。
里山に岩徳線のガタンゴトンという音が遠くこだまし、向かいの蓮田*2では赤蜻蛉がピンピンと飛んでいる。
「血を吸うちょるけん花が赤いんじゃって」
曼珠沙華、『彼岸花』の別名である。三倍体の球根植物。群生し、開花時には葉がなく、地面から茎のみがすうっと伸びて、紅い花が咲く。
「う、嘘じゃろ?」
花弁は細長くて繊細に編み上がっており血管の様。畦の緑と花の紅のコントラストが狂気的に美しく、じっと見ていると、本当に遺骸が眠っている気がしてきて怖くなった。
「お兄ちゃんが言うとったもん、ホンマじゃ」*3
そう言ったかと思うと、ナガタくんは手に持った棒切れでバシバシ曼珠沙華をシバき始めた。無数の紅い花弁が暮れ始めた秋空に舞って赤蜻蛉みたいだ。
「あぁ!そんな事したら呪われるけん、やめときやめとき」と焦りまくるボクを尻目に
「大丈夫じゃ、掘り返さんけぇ呪われん」
・・・ナガタくんは最強だと思った。
 
道の向こうで女子たちがリコーダーで「もみじ」をピーピー吹きながら通り過ぎていった。やべ、明日テストだった。
 

ごんぎつね (日本の童話名作選)

ごんぎつね (日本の童話名作選)

ところで、曼珠沙華といえば「ごんぎつね」ですね。ちょうど上記の年頃に国語で習ったような。無条件にダーダー泣きました。

*1:猫じゃらしのこと

*2:ここは岩国。レンコンの産地です

*3:アルカロイドを含む毒性植物なのでそのまま食べると死にます。田畑の畦にあるのは害獣避けだそうです。まぁお墓にあるのも同じ意味ですが、田畑に死人を葬っているわけではないですから真っ赤な嘘。ナガタ兄弟は話を混同してしまっていたのですね。