かかと落とし

バンドネオンという楽器をご存知だろうか?
蛇腹の両側に沢山ボタンが付いた楽器で、タンゴの演奏などでよく使われるアレである。有名な演奏家としてはアストール・ピアソラがいる。
仕事でバンドネオン奏者の啼鵬(ていほう)さんにお会いする機会があったので、休憩中にボクが前から不思議に思っていたバンドネオンに関する疑問をぶつけてみた。
それは
「アルゼンチン・タンゴ特有の
 ジャッジャッっていう鋭いスタッカートは、
 どのように演奏するのか?」
ということだ。
音楽を多少かじってる方にはお馴染みだろうが、スタッカートというのは音符を短く切る奏法で、楽譜の記号としては音符の上に点(・)が付く。
ピアノは鍵盤を強めに叩いてすぐに離せば簡単にスタッカートになるし、管楽器は息を短めに出して発音するときに舌で突けばよい。
ところがバンドネオンはリード(振動する板状の部品)が仕込まれている部分に空気が通ると音が出る仕組みで、オーボエやサックスなどと原理が同じなんだけど、管楽器のように舌が使えない。*1
蛇腹を押したり引いたりするスピードで瞬間的に風圧を変えることは出来るが小さい楽器ではないので細かい音符が続くと限界がある。
ではどうするか。
答え《かかと落とし》
バンドネオンはタンゴを演奏する場合、座って片方の膝に蛇腹の部品を乗せるのが基本のフォームで、鋭いスタッカートを出すときは蛇腹を引く瞬間に蛇腹が乗っている膝の脚の「かかとを落とす」のだそうだ。すると鋭いスタッカートが出るのだそうだ。
有り難いことに実演までしていただいた。蛇腹の押し引きだけの場合と、+《かかと落とし》場合とでは音の鋭さが驚くほど違う。
しかし手と蛇腹と《かかと落とし》を連動させて上手くスタッカートを出せるようになるには最低3年はかかるという。
格闘技以外にも《かかと落とし》の奥義をここに見た。

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*1:オルガンやアコーディオンもほぼ同様の事情