三文の得になるかならぬかわからぬ話

バンドジャーナルの2011年7月号、9月号、10月号とかけてクルト・ヴァイル(1900〜1950)の「小さな三文音楽」の組曲の中から5曲ほどピックアップした小編成の吹奏楽編曲版(中原達彦さんによる)が付録として収録された。
「小さな三文音楽」は元々音楽劇〈三文オペラ〉の劇伴曲として書かれた楽曲を室内楽曲として8つの組曲にヴァイル自身が再編成した作品だが、室内楽といっても編成は18人程度の小さな吹奏楽団である。実際、東京佼成ウインドオーケストラの第83回定期演奏会*1のトリを飾る曲として取り上げられた名曲中の名曲。こういう楽曲に学生が触れるファーストコンタクトとして、今回の付録はとても意義があるように思える。
実はこの「小さな三文音楽」をめぐっては著作権上のトラブルが割とあって、ボクも知り合いの作編曲家がこの楽曲の件で可哀想な厄介事に巻き込まれたことがあるのも知ってたので、編集長にその辺のカラクリは該当機関とどうやって上手くやったのか経緯を聞いたところ、別にカラクリも何もないとのこと。現行の著作権法に則れば全くクリアで、とやかく言われる筋合いもないので出版したという。老舗の音楽出版社の判断は拍子抜けするくらいアッサリしていた。
先日、EU理事会が音楽著作権の保護期間を50年から70年に延長する新しい指令を可決した。著作権保護期間はベルヌ条約で「著作者の生存期間及び著作者の死後50年」の原則があり、各国の最低限の義務としている。それをヨーロッパでは70年にしましょうという話だ*2
またパブリック・ドメインという考え方がある。人間の知的創作物を共有する事であり、著作権の保護とある意味対立する。しかしご存知の通り、音楽やボクの携わるデザインや美術の世界は著作権保護の考え方がなくては生活出来ないものの、パブリック・ドメインの恩恵なくてはそもそも論的に創作・生産活動が不可能だ。デザインは過去の様々なイメージを皆が共有しているからこそ表現・情報伝達として成り立つのであり、クラシックのミュージシャンなんぞはパブリック・ドメインの膨大な作品があるから食っていけるのである。
ボクはベルヌ条約の原則である「著作者の生存期間及び著作者の死後50年」が人間というサイズにおいて保護期間として最も妥当だと思う。やはり優れた著作物はある期間が過ぎたら人類共有の財産となるべきだと思う。
そして、そういうモノを一つでも世に残せれば表現者として幸せだなぁ、とも思う。

Band Journal (バンド ジャーナル) 2011年 10月号 [雑誌]

Band Journal (バンド ジャーナル) 2011年 10月号 [雑誌]

新しい音楽劇

新しい音楽劇

  • アーティスト: ロンドン・シンフォニエッタ,フェラー(カルロス),ピアソン(ウィリアム),バイル,リゲティ,アサートン(デイビッド),ブーレーズ(ピエール),アンサンブル・アンテルコタンポラン,カブリロフ(サシュコ),オスターセク(エクベルト),ルイメン(ジェラール)
  • 出版社/メーカー: ポリドール
  • 発売日: 1999/12/22
  • メディア: CD
  • クリック: 6回
  • この商品を含むブログ (1件) を見る

*1:プーランク「フランス組曲」/メシアン「異国の鳥たち」/武満徹「ガーデン・レイン」「室内協奏曲」/ストラヴィンスキー「エボニー・コンチェルト」/ショスタコーヴィチ「ジャズ組曲第一番」/ヴァイル「小さな三文音楽」 指揮:岩城宏之 今思い起こしてもヨダレが出るプログラムとキャスティング!

*2:ちなみにメキシコは100年と長い