ハイテクなビル、ローテクなオレ

とあるクライアントの仕事で情報セキュリティに関する会議に出席するために、今春竣工した超ハイテクなビルに出かけた。一流企業相手にヘナチョコな格好では信頼されないので、ハッタリ効かせて「オレはデザイナーだぞ」的なカッチョいい派手ジャケットを羽織り、珍しく髪もバッチリ整えて行った。
このビル、何がハイテクって、もう入るところからハイテクだ。まず入館するのに予めメールで頂いていたシリアルナンバーをロビーの端末に入力してQRコードのついた入館証を取得し、鉄道の自動改札みたいな入り口から入るのだ。3階分はあるそのデカいロビーは、ズラっと何機もあるエレベータ前にならんだ改札と、これまたズラっと並んだ綺麗な受付のお姉さんたちと屈強なガードマンに守られている。
オレ客なのに、何か、もう意味もなく謝っちゃいそうだ。
で何とか入ることが出来たら、最新のヘッドラインニュースなんかも表示されるハイテクなエレベータに乗って目的階へ。そしたら今度は会議室探しだ。今流行りのブラウンの木目調で統一されたシャレた長い廊下に会議室がズラリと並ぶ。その中にやっとのことで指定された部屋を見つけて入ると、今度は半透明のガラスで区切られた無数の部屋が現れる。部屋の名前は全て数字とアルファベットで付けられている。今度は宇宙船の中みたい。映画やゲームの迷路みたいでキリがなく、現実味ゼロ。
まぁその一室で、そのプロジェクトのワークフローにおける情報漏洩を防ぐべく提案された方法が、現実的に効率よく運用可能なモノかどうか検討したんだけど、これ自体は普通に会議。オレでも分かる内容。ってか逆に問題点を指摘できるくらい。でもそのガラス張りなのに防音バッチリの部屋は超ハイテクな訳で、何だかドラマの中みたい。オレまでハイテクな気分。
でもそんな訳ない。事件は最後に起きた。
帰り、出館ゲートで、何とオレだけ何度QRコードをかざしてもエラーが出て通してくれない。最後には完全にロックがかかってしまい、マゴマゴしながら受付のお姉さんに「出られなくなっちゃったんですケド」と相談する羽目に。そしたらCGかというくらい目鼻立ちの整ったお姉さんが「少々お待ち下さい」と笑顔で専用のカードを持って出て来てくれた。で、オレの入館証を無言で取り上げ、カードをかざしてゲートを開けてくれる。
「いってらっしゃいませ」その美しい笑顔の目だけは決して笑ってなかった。
ゼッタイ怪しい事をしたと思われている。入館証はコードで管理されているので、無数の監視カメラの画像を解析してオレの行動を最初っから調べ上げるに違いない。
何も疾しいことをしていないので後ろめたさは無いのだが、慣れない場所に来てウロウロ廊下で迷ってたり、トイレの洗面所で気合い入れてたりする所も見られて「ダッセー」とか思われるのだろう。
しょうがないじゃん。こんなの初めてだもん。
かくしてハイテクビルとの対決は敗北に終わった。何かとてつもなくローテクな理由で物理的にカードが傷ついちゃってたんだと思う。ジョン・マクレーン巡査*1ならローテク技で派手に通り抜けちゃうんだろうけど、オレ、デザイナーすから、何やっても机上の空論、絵に描いた餅。現代のスーパーテクノロジーの前にはお手上げでゴンス。
だから、次に行く時はゲートくらいちゃんと通れる男になりたい。

*1:モチロン「ダイハード4.0」ね。