筑紫丸ゴシック

「遂に出ますよ。」昨年の某日、n-yujiくんにそう言われて渡されたフォントワークスの最新リリース予定の見本を見て驚いた。
・・・ホントに作ってくれたんだ・・・まだ試作段階と聞かされたその書体はボクがあのときリクエストした書体そのものだった。
数年前、n-yujiくんと知り合いのフォントワークスの方が事務所にいらっしゃった。n-yujiくんから、その時こちらの要望などあれば言って下さいね、と言われていた。
ボクはその頃、世の中にあるデジタルフォントの丸ゴシックに不満を持っていた。
カッチリしすぎなのだ。ナールみたいに。
ボクの欲しいのはもっとフラフラした文字なのだ。
かつて写研に「ナール」という一世風靡した丸ゴシック書体があった(今もあるんだけど)。字面(実ボディ)が大きく取られており、ベタ組みでもそれなりに詰まって見える。線幅も均等でグラフィカル、なのに視認性が高い。後に逆にゴシックに概念が取り入れられた「ゴナ」シリーズと共に写植全盛期の中核を担い、公共スペースには必ずお目見えする書体だ。DTP用の書体に与えた影響も大きく、殆どの丸ゴシック書体はナールのような形だった。そうでないものもあったがイマイチだった。
写研にはもう一つの丸ゴシックのラインがある。「石井中丸ゴシック」、1956年にリリースされた古い写植用書体だ。いわゆる従来の丸ゴシック体。字面も小さく、フォルムもフラフラ。何を組んでも今イチやる気のない感じ。当時はそのアナログ感がネガティヴに見えたのであろう。
しかし、これがいい。ぬるま湯。音楽でいうとボサ・ノヴァ。ペヤングのソース焼そば。
そんな書体が欲しかった。だからそういう丸ゴシック体を作ってほしいとリクエストしたのだ。それをn-yujiくんがどう伝えてくれたのかは判らないが、後から彼から聞くに「当時そんなリクエストをしたのはウチともうひとつのデザイン事務所だけ」だったそうだ。
そしてしばらくして昨年末にリリース。いやー、目出たいなぁ。有り難いです。
こうしてデザイナーのニーズに機敏に反応するフォントワークスという会社は素晴らしいと思います。
で、リリースされた暁には、この書体を使って是非組んでみたかったモノがあるんです。もうね、毎日これみて「この書体のデジタル版が欲しいなぁ〜」と毎日穴があくほど溜め息ついて見つめていたモノ。
それは
 

 
デザイナーって偏愛する傾向がある所謂一つの例ですね。