ルールル、ルルッルーと歌えない話。


正月飾りを玄関にかけていた隙に開いていたドアをすり抜けてmittenが脱走してしまった。
トットと階段を降りてどんなに呼んでも「わーい」と一目散に駆け出した。emixが飛び出していった方向を見ていたので咄嗟に「あっち!」と指示を出し、ボクはすぐに走って追いかける。
信号は赤なのに偶然車が通ってなくてmittenはそのまま交差点を突っ切りドンドン走っていく。
ボクは日頃走っていたのが幸いしてすぐに追いついたのだが、どんなに呼んでも止まらない。ボクが一緒に走ってくれているとさらに勘違いして楽しそうなのだ。それを証拠にこちらがスピードを緩めるとmittenも緩め、早めるとmittenも早める。でもボクが止まっても止まらない。ジャック・ラッセル・テリアは元々猟犬だし、スポーツドッグとして常に上位入賞する程運動能力が高くタフな犬種だ。mittenはジャックにしてはそんなに足が早くないので、さらにスピードを上げて追い抜きたかったのだが今回は無理だった。
ボクは慌ててたので裸足だったのだ。
もう大通りに出てしまう! マジでヤバい、という直前に後ろからバイクがサッと追い抜いてきてmittenの行く手をブロックした。偶然パトロールに通りかかったお巡りさんが事の次第を理解して、心配そうに見ていたemixに「追いかけてみましょうか?」と申し出てくれたのだ。
mittenはボクとお巡りさんに挟まれてやっと止まった、というか、さすがに疲れて走るのをやめたという感じ。
ボクはmittenをさっと抱きかかえ、お巡りさんにたくさんお礼を言って、元来た道をトボトボ戻った。大掃除で外に出ていた通りの人たちに「良かったですねぇ」と言われながら。なんだか照れくさい。しかし当の本犬はちっとも悪びれてない。どころか「いっぱい走れて楽しかったぜ」と満足顔だ。
いやはやと家について足がヒリヒリすることに気付く。そうだ、ずっと裸足だったのだ。お魚くわえたドラ猫を追いかけて裸足で駆けてくサザエさんは、ちっとも陽気ではなかっただろうと同情した。