大好物


突然宣言するが、私は錦松梅が幼少の時分より大好物である。妻が昔小学校の教師をしていた折に、受け持ちのクラスの某児童から「オレ、ふりかけは錦松梅しか食べねぇ」と大見得を切られたと話したことがあったが、「生意気な子だねぇ」と答えておきながら心の中では「至極モットモだ」と思ったものである。
何だろう、あの最高級感は。しっとりとした至福の時間は。木の実の豊かな広がりは。そして全てを演出するあの器たちは。
錦松梅というのは普通どなたかにご贈答でいただくものだ。いただかないと食卓に上がらない、それはそれは貴重なものだ。しかし、しかしである。
本日その禁則を私は破った。大宮そごうの地階で盆に供える菓子を選んでいたとき、そのショーケースは突然目に飛び込んできた。涼しげな器バージョンの錦松梅。目が釘付けである。これは、これは・・・ひょっとして・・・恋?
ショーケースの前を5度往復し「買いたい」「いただくものだぞ」を頭の中で50回押し問答した挙げ句、妻にその旨を伝えて口論になり、離婚寸前まで行ったところで何と妻が折れた。
嬉々として店員を呼ぶも、いざ買うとなると緊張が走る。
私「こ、これ、クダサイ・・・」
店員「有り難うございます! 熨斗はいかがしましょうか?」
私「・・・えっと」
妻「自宅用ですっ(怒)!」
店員「は・・・かしこまりました・・・」
・・・そ、そうだよね・・・ふつう熨斗付けるよね・・・
誠に妻には申し訳ないと思いつつ、今夜の食卓を思うと胸が高まった。
器は二つ入りセットなので、一つは明日、実家に持って行こう。
そうすれば妻の実家でも錦松梅を食べることが出来義母も喜ぶに違いない。