サクラ読本


教科書に関わる仕事をしているせいか、古い教科書などには興味がある。先日も明治神宮に初詣に参った帰り道、参道沿いの土産屋で何故か「小學國語讀本 巻一 尋常科用 文部省」なる復刻本が売られていたのでツイツイ購入してしまった。国定教科書第4期、所謂「サクラ読本*1」である。
写真製版による復刻なので、印刷方法などは当時のモノとは違うが、それでも面白い発見がある。例えばこの巻の冒頭は片仮名のみの分かち書きで組まれているので単語での旧仮名遣いが確認出来て良い。「タラウサン ハ グンカン ノ ヱ ヲ カキマシタ。」=「太郎さんは軍艦の絵を描きました。」なんだけど、絵はヱ(we)なんだなぁ、とか。(まぁこれはボクが単に無知なだけなんだけど)

また、約物の扱いの違い、分かち書きならではの規則*2など、組版の部分でも興味深い点が多い。
そして、教科書体(文部省活字)という書体の初出である本である。教科書体の話は前も書いたが*3、文字を拾って現在の様々なメーカーと比較してみるのも面白いかもしれない。
フォーマットとしても、新出文字が下段でなく上段に配置されている点が、余計な情報もなくシンプルで良い。またイラストもカラーで盛り込まれ、ひとつの絵の情報量も多く楽しい。「サクラ読本」は内容に(軍事)国家政策の色が強い教科書とはいえ、教師にとっても使い易く、児童にとっても興味を惹く魅力的な編集方針になっていることは間違いない。
電子化などによるインタラクティヴな教科書開発の話題が盛んな今、そのシンプルな作りにこそ、コミュニケーションと学習の原点があるのではないかと立ち返って考えてみるのも良いかもしれない。(続く)

*1:巻一の冒頭が「サイタ サイタ サクラ ガ サイタ」から始まることにより由来される愛称

*2:単語単位で一まとまりなので、途中で単語が行変りする場合はハイフンを使用している。つまりパラパラしてるから判りにくいけど、実はこのフォーマット概念としてはジャスティファイ

*3:2010年9月20日「学参フォント