ベートーヴェン捏造

ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく

ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく

かげはら史帆『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』(柏書房)読了。
編集を担当された Takeda Junさんに相談を頂いたことをきっかけに興味を持ち(結局お役に立てず申し訳なかったのだが)拝読。
ベートーヴェンといえば押しも押されもせぬ楽聖として音楽室の後ろで睨みを利かせている印象をお持ちの方には衝撃的、シンドラー疑惑(エレベーターじゃないよ)の一件をご存知の方にも唸る場面満載の注目の書籍。
筆運びはエンターテイメント小説を彷彿とさせグイグイと惹き込まれるものだが、下地は著者の研究や論文なだけあって事実検証はかなり綿密である。とにかく本書の中心となるイワクツキの『ベートーヴェンの会話帳』を巡る著者の疑問に対する眼差しや史実の行間から読み解く登場人物たちの心理描写が痛快である。
これにメトロノームの発明者と(いうことになっている)して名高くベートーヴェンとも親しく(ということになっている)ナポレオンをも騙した稀代のペテン師(私は勝手にリアル・オズの魔法使いと呼んでいる)メルツェルの珍奇な生涯をブレンドすれば、産業革命期の19世紀ヨーロッパという狂騒性を通して情報革命期の21世紀に潜む危うさを透かし見ることが出来るのではないか、とも思えてくる。