麻痺


上智大学のグラウンドが遥か下に見える
三百年前の掘の底で三百年後の学生は庭球に汗を流す
その昔江戸の守りを固めた外堀は今は小高い櫻の並木道だ
  
パイプをくわえた初老の男が火も点けずにベンチで休んでいる
雀達が今捕らえたばかりの蟷螂で遊んでいる
ホームレスの洗濯物が向こうの手摺に力なくぶら下がっている
しかし生い茂る櫻と真夏の太陽が全てを白と黒に塗り分けてしまう
    
中央線がまた四ッ谷のホームに滑り込んでくる
見附橋の上を激しく車両が往来する
建設中のビルで工員が激しく何かを言い合っている
しかし生い茂る櫻にしがみつく蝉のノイズが全ての音を遮断してしまう
  
こんな色と音のない世界からは早く抜け出してしまおう
早く?
時間も止まってしまったというのに?