本の力

朝原宣治さんの本を読んだある小学生が読書感想文を書いて送って来てくれました。
それは、大きな原稿用紙3枚にけっして上手とは言えない字ですが、丁寧に書いてありました。・・・走るのが小さな頃から大好きなこと。世界陸上で活躍していた朝原さんのこの本を本屋で見つけてお母さんに買ってもらったこと。「滑走路を飛び立つ飛行機をイメージして(徐々に加速して)走る」と書いてあったことが、今までの自分の走るイメージ(スタートからいきなり手をブンブン振ってダッシュする)と違って大変驚いたこと。それを実際試したら友達との競走に勝ってしまったこと。運動会では思うような結果が出なかった(実は5位だった)けど、次のマラソン大会では本で書いてあるトレーニングをして1位をとりたいこと。そして、朝原さんは世界一を目指しているのに、自分のことだけを考えずに、みんながどうしたら速く走れるようになるかを教えてくれることに感動したこと。自分も将来大人になったら、そういう本が書ける人になりたいこと・・・
これを読んだ編集のtomoちゃんは感激のあまり泣いてしまいました。
ボクらは本の持つ力を信じて仕事をしています。自分たちの思いが誰かの心に触れ、伝わっていく。そういう本を作りたい。忙しさにかまけて、ついつい見失いがちになりつつも気を取り直し、自分の頬をパンパンと叩いて奮い立たせます。
連日の相次ぐ不正に対する報道は、取材される側だけでなく取材する側にも責任が問われ、誹謗中傷の渦の中「何を信じていいのか判らない」とマスコミへの非難も大きいです。
本を作る我々もマスコミの一員です。虚飾とは言わないまでも、過剰な表現の、その一端にさえボクたちは全く加担していない、と言うとそれは嘘になります。ボクらはついつい、本を売りたいがために安直な手段に陥りがちです。しかし、それではいい本はできないし、結局本は売れないのです。
今回は「みんな、こうすれば今よりずっと速く走れるよ」という朝原さんの思い、その思いをキチンと伝えたいという編集やデザイナーの努力がブレずに最後まで通せたから、こうしてある小学生の心に届いたのだと思います。現に彼は今日も11月末の大会を目指し、朝原さんのメニューを参考に走り込んでいるのです。
最後に彼はこう結んでいます。
「ぼくは、この本を読んで、ちょっとだけ走るのが速くなりました。」

朝原宣治のだれでも足が速くなる (GAKKEN SPORTS BOOKS)

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