焦燥

「チッ」
男は爪を噛みながら舌打ちをした。
窓の外は夜景がどんどん流れて行く。
眉間に浮かぶ憎しみと焦りの表情。
やがて電車は浮間舟渡駅にさしかかった。
「クソッ」
男は苦悶の表情で罵った。何を。
窓を弱く、しかし力を込めてドスンと重く叩く。
その力は窓の外の風景を押し殺すよう。
 
やがて電車はスピードを上げて勢いよく荒川に架かる橋を渡る。
「ハァ・・・」
思い詰めたような、いや諦めともとれる溜め息。

しかし、ボクはこの男に強い意志を感じた。

次第に男の眼光は鋭くなっていく。
次に進むべく自分の運命に思いを馳せるが如く。
男の顔は強張っていたが、もう怖れてはいなかった。
 
 
 
プッシュ〜〜『武蔵浦和〜武蔵浦和〜埼京線通勤快速・川越行きです』
 
ダッシュして階段を駆け下りる男の後ろ姿。
 
GOOD BYE そして GOOD LUCK!
もう二度と、各駅停車と間違うなよ。
 
そう声援を送りながら、ボクは乗り換えの各駅停車に移った。