空き地

空き地や山が誰かのモノだなんて子供の頃は全然知らなくて、勝手に入ってバッタやカエルを捕ったり秘密基地を作ってずっと夕焼けを見たりしてた。草むらは無限に続き、天空に伸びた木々を登りきると、何処までも空だった。空き地に天体望遠鏡を持ち出し、母親の怒鳴り声が近所に響き渡るまで星の世界に浸った。
その後マンションが建ったり造成されて更地になったりして、それが誰かのモノだと知った時、急に世界が小さくなった。空は道路の脇から見える隙間に過ぎなくなった。やがてカエルにも基地にも興味がなくなり、天体望遠鏡はホコリを被った。受験勉強とブラバンと女の子にしか興味がなくなり、ボクは立派な中学生になった。それが大人だと思っていた。
21世紀になって、とっくに大人になったボクは今日もJR高架下の長〜い空き地の脇をジョギングする。定期的に草刈りしたり枕木の柵を鉄柵に替えたりする作業員の労をねぎらいながらも、くたばらず逞しく生えるエノコログサや曼珠沙華やススキに声援を送り続ける。季節の風情を分けてもらっている。ホバリングするシオカラトンボ、チキチキ跳ねるショウリョウバッタ、それを追う雀、それを狙う野良猫。誰かの物かもしれない空き地に誰の物でもない生命の躍動。モチロン空はどこまでも続いている。