シンバシ・シンパシー(その1)

夕刻学研の編集の方々とご一緒にイラストレーターの毛利彰さんの追悼展を観に銀座へ。印刷物でしかお目にかかったことのない(本来の使用目的ですからそれで良いのですが)作品の原画を間近で拝見させていただいた。時代と共に移り変わる要求に見事に応えながらも、自身のタッチを確立し、味わいと深みを増していく。しかも過去の作品たちは古びるどころか、新鮮な輝きを放ち続けている。時に優しく艶やかに、時に力強く哀愁こめて描かれる人物や風景は常に繊細な筆遣いと配慮が為されており、イラストレーションとしてだけでなく絵画としてもクオリティが一流の作品群に、もう唸るしかない。 何でもかんでもデジタルデータ上でブラッシュアップしていく今の時代に生きる我々に『それで何が残るのか』と問うているようで気恥ずかしい。
会場で毛利さんの奥様と娘さんに学研の部長さんがご挨拶をしていた。彼はかつて『歴史群像』という雑誌の名物編集長として長年、毛利さんと数々の名作を世に送り出してきた方だ。思い出話に花が咲く。大きな仕事をした人しか纏えない、独特の空気。素敵だなぁ。
ご挨拶が済んで、会場を出た。
「どっかで飲んで行こうか」
伝説の部長様のお誘いに、ワレワレ一行は新橋の街の灯に吸い寄せられていくのであった(続く)。

実はボクは直接毛利さんとお仕事をしたことがないのです。何冊か毛利さんが装画を描かれた本の「本文デザインのみ」を担当させていただきました。こういう場合、表紙を担当しないのって本当に珍しいのです。表紙デザインは歴史研究家でデザイナーで漫画家の大野信長さん。なんとマルチな!