全日本吹奏楽コンクール課題曲参考演奏集

 
さて、発売がいよいよ今週末となりましたので、こちらでも宣伝させていただきます。
ボクがこの冬、ダメ人間になって仕事ばっかりして作ってた中の一つ、いや二つか、がこの「全日本吹奏楽コンクール課題曲参考演奏集Vol.1(1975〜1992)KOCD-8881/84」と「全日本吹奏楽コンクール課題曲参考演奏集Vol.2(1993〜2008)KOCD-8885/88」です。
社団法人全日本吹奏楽連盟と朝日新聞社が主催の全日本吹奏楽コンクール、またはその下位大会*1に参加された経験のある方はご存知だと思いますが、毎年全日本の課題曲譜面が発表・販売される同時期に、その譜面の参考演奏の録音が販売されます。
各バンドはこの録音を聴いて、自分たちは今年はどの課題曲を演奏すべきか話し合ったりします。
特に譜読みや技量や解釈などが未熟な中高生などは、この録音を参考にして練習したりするわけです。同じブカツの友人と部室で聴いたり、一人家で楽譜とニラメッコしながら聴いたり、青春の1ページのBGMとしてこの録音が刻まれるんですね。
この参考演奏の録音(通称「課題曲《デモ》音源」と呼ばれる)は1975年からレコードやカセットテープによって販売が始まり、現在まで35年間続いているわけですが、今回の企画はその1975年から2008年までの課題曲の参考演奏144曲を2巻で合計8枚のCDに収めたという大作です。

全日本の大会(全国大会)では毎年、アマチュアや学生とは思えない素晴らしい名演が数多くが生まれていますが、殆んどの吹奏楽愛好者(あるいは経験者)にとって吹奏楽コンクールは、高校野球のように「時代を象徴する」何かというより、非常にパーソナルな「思い出」として捉えられることが多いようです。それは吹奏楽コンクール自体が、全体としては、レベルの高い音楽を鑑賞したり新しい才能を発見することより、「参加すること」に非常に高いウエイトが置かれる傾向にあるからだと思います。
つまり日本全国のブラバンなボクたちワタシたちにとって「あのときの顧問ウザかったけど、言うこときいてたら上達したんだよな」とか「大好きだった同じパートの先パイと陽が暮れるまで練習してシアワセだった」とか「合宿でみんなと花火した」とか「本番で緊張しないようにパートでお守り作った」とか「本番でソロが上手くいかなくて泣いてたら、みんながなぐさめてくれた」という体験こそが重要なファクターなのだと思います。だからこそ過去の課題曲を聴くと最初に出る感想の多くは「懐かしい」なんだと思います。それは明らかに個々の体験とリンクしているからこそ出てくる言葉です。
仲間と、先生と過ごすツラくも楽しい練習の日々こそが吹奏楽コンクールの醍醐味であるなら、そういう思い出をフラッシュバックさせるのは各年の名演が収録された「全日本吹奏楽コンクール実況録音」ではなく、この、演奏としてはニュートラルだけどみんなが聴いた「参考演奏集」だと思います。これは、そんなみんなの「夏の思い出」*2がつまったアルバムです。
しかしまた、このアルバムは付属する国塩哲紀さんの素晴らしい解説により、吹奏楽コンクールだけでなく戦後の日本人作曲家の系譜も辿ることができる新しいタイプの邦人作曲家の事典としても機能します。
そういう意味ではコンクールの名演にはチョイとウルサイよという吹奏楽愛好家さんにとっても第一級の資料です。
そして何よりも、マスター・レコーディングが失われ、古いレコードやカセットテープから復活させた音源は、その後のマスターから起こしたデジタルリマスター音源と共に、驚くほど新鮮にスピーカーから響き渡ります。
何につけ良くも悪くも言われる吹奏楽コンクールですが、皆に愛されていることだけは間違いないようですので、このアルバム、お求めになる価値は十分ありますよ。
ボクとしては、自分がコンクールに参加していた時期の課題曲よりそうでない時期の課題曲の方が、かえって色んな音楽の内容が見えて面白かったです。*3
デザインの制作メモとしては、百科事典のような重厚さを意識しました。レーベルの担当者を説得して箔押しまでしちゃいましたからね。でも、こういうデザインなら皆さんも持ってて損した気はしないでしょう?

*1:全日本〜は通称「全国大会」と呼ばれてます。下位大会としたのは所謂「地区大会」「県大会」「支部大会」と呼ばれる各地方の吹奏楽連盟が行う大会で、組織的には全日本とは別運営のコンクールなんだそうです。ただ、各大会が全日本吹奏楽コンクール、または上位大会への選考会を兼ねるため、レギュレーションを全日本に準じているわけです。だから全日本大会出場選考と関係ない部門のレギュレーションは、各連盟により結構な違いがあるわけです。複雑ですね。

*2:殆どの団体が下位大会が行われる夏場で結果が出てしまうため

*3:実は先日の石巻への行き帰りでサンプル盤を《ほぼ》全編聴きました。往復9時間でも全部は聴けなかった!