音色

ピアノの音色が何故演奏家によって変わるのか、という話をピアニストの巨瀬励起さんとした。ピアノは鍵盤、つまりキーボードを押すことによりテコで力エネルギーが伝わっていき、最終的にハンマーで弦を叩くことで発音されるメカ(機械)だ。音の発せられる境界面で人体が関わることもなければ、主たる共鳴体にもなりえない。関わることが出来るのは打鍵の強弱のみのはずだ。つまり発音そのもので奏者の音色の違いは出ないはずなのだ。
筋力や指や腕の長さの違いなど、身体能力の差がスケールやハーモニー、デュナーミクを打鍵する際の差として現れるだろうが、では腕力があり指も太く長いプレーヤーこそが豊かな音色を備えられるのか、というとそう言う訳でもない。名プレイヤーは屈強な男ばかりになってしまう。またペダルアクションの巧みさが音色の分かれ目とも限らない。大事なテクニックではあるが、その結論は安直過ぎる。
二人の結論として、ピアニストによる音色の違いは、個々の奏者が演奏で紡いでいく音列と打鍵のバランスの前後関係から《一種の錯覚》として立ち表れるのではないか、ということになった。
極端に言えばリサイタルにおいて、大きなアクションをするんだけど実際の打鍵は細かく制御されていたりするプレイヤーだと、極端に柔らかな音色を放つ印象に聴こえ(見え)たり。例えばレコーディングにおいて、譜面とテンポに正確なんだけど鍵盤を次の音符が始まるまで上げないプレイヤーだと音が固くかつ厚く聴こえたり。
つまり、ピアノの音色の差とは物理的な単発の発音現象ではなく、発音と発音の間にある行間をオーディエンスが感じ取ることで生まれる。
でもこれって、他の楽器や声楽にも、はたまたデザインにだって関係がある話だよな、と思いながら、会話は他の話題に移っていった。

巨瀬励起ピアノ・リサイタル
2010年1月14日[木]19時開演(開場18時30分)
すみだトリフォニー小ホール
入場料: 3,000円(全自由席)
 
ノルベルト・ブルグミュラー:ソナタ ヘ短調 op. 8
ルイ・エクトル・ベルリオーズ:幻想交響曲 op. 14
  (フランツ・リストによるピアノ独奏版)
フレデリック・フランソワ・ショパン:バラード 第4番 ヘ短調 op. 52
 
◆主催・チケットお問い合わせ:巨瀬励起リサイタル実行委員会(e-mail info★leiki.jp ※星を@に)