あなどれない一冊

カラー図解 楽器から見る吹奏楽の世界

カラー図解 楽器から見る吹奏楽の世界

こういう本を読みました。演奏家や作品ではなく、楽器からアプローチした吹奏楽の本。一見、初級者向け実用書のゆるゆるデザインを施されたこの本ですが、著者がパイパーズでも度々こだわりの記事を書いていらっしゃる佐伯茂樹さんですから一筋縄ではいきません。もちろん吹奏楽は知っていても楽器についての知識が深くない方にもとても分かりやすく書かれていますが、随所に散りばめられた多くの写真は、特に注釈がなされていない部分まで見る人が見れば「おぉっ!」と唸ってしまうシロモノが多く*1、さらにコラムは楽器マニアには痒いところに手が届き過ぎるニヤリとした内容になっています。
金属加工技術が飛躍的に発達した産業革命以降、つまり19世紀から20世紀にかけての管楽器開発史は、特に欧米でローカライズとグローバリエーションが繰り返され、誰もが誤認しかねない複雑さを極めました。そしてそれは生み出されていった音楽作品とも密接な関係を持っています。
現代のほぼ統合されてしまった標準的な楽器で演奏すると「なぜこんな無茶なことを作曲家は要求しているのだろう。いくらイマジネーションがそうでも、この人、楽器の使い方を知らないのかな。」と思ってしまう楽曲*2も、当時の作曲家の身の回りの管楽器事情から照らし合わせてみるとアッサリ解決する部分も多いのです。演奏するこっちの方が生半可な知識だってこともありますから、ご注意ゴチュウイ。
但し打楽器(特にラテン)に関してはこちらもご併読下さい。初級者が読むにはかなりヘヴィですが、手応えはあります。
世界の民族音楽辞典/若林忠宏著

世界の民族音楽辞典/若林忠宏著

*1:例えば「ディオニソスの祭り」のグラン・オルケスタ・ダルモニーの編成例で「F管ホルン」として紹介されている小さな写真がちゃんと「コル」というフランス式のピストンホルンだったりします。

*2:例えば「剣士の入場」の殺人的パッセージのトロンボーンパート、C管ピッコロでは明らかにソロが演奏しにくい「星条旗よ永遠なれ」の調性、テューバにはハイトーン過ぎる「展覧会の絵:ヴィドロ」など。