こんな夢を見た

赤紫の空の下、ボクと小次郎は大田区の町工場を見下ろせる断崖絶壁にいた。小次郎は大学生時代の友人で、最近までパチプロを生業としていたアウトローだ。数学マニアでかなりイケメンなのだが、今日は黒いマントを纏っている。ボクはといえば、メガネをかけた小学生の姿だ。丁度ブラックジャックとのび太を想像してくれるとよい。
風が吹いた。小次郎のマントが翻る。「otoshimono、過去へ戻ろう。お前はこの道を知っているな」
そう、ボクはこの道を知っている。かつて夢の中でemixと冒険した目も眩むコンクリートの絶壁だ。
「行くぞ!」小次郎が駆け出したのでボクも後を急いだ。しかし角を回ると小次郎がいない。その代わり、眼前に真っ直ぐな坂道が広がった。
その坂はぐーっと下りたところでまた上りになり、道は丘の稜線に消える。しかも辺りはビルだらけだ。そう、ここを行けば高田馬場なのだ。大学生の頃アルバイトで通った雑誌の編集部がある。
身を躍らせてボクはビュンビュンとに駆け降りた。
何故、黒マントの小次郎が現れ「過去に戻れ」と小学生の姿をしたボクに言ったのか、現在の妻であるemixと夢で旅した道を行けと言ったのかは判らない。
ただ一つ、判っていることは、あの時代に何か忘れ物をして来たのだ。それを取りに行かないと前に進めないのだ。
ボクの足取りはいよいよ軽く、翼を得たかのようなスピードで暮れゆく坂だらけの大都会に飛び込んで行った。