学校で教えてくれること、学校では学べないこと

ゼルくんの妹さんが美術系の大学に通っていて、一度作品を見てほしいということでお会いしました。
美術系の学校にこれっぽっちも通ったことがない(予備校すらも)ボクにとって、大学で彼女たちが何を勉強しているのか興味深いところです。自主制作したものと、課題として授業で提出したものとを色々拝見させていただきました。
彼女の専攻がデザイン学科だけあって、パンフレットや雑誌や小説の装丁、カレンダーやパッケージなど一通りのことはやるし、それっぽく仕上がっているので感心しました。それぞれのジャンルのエキスパートから手ほどきを受けられる点では学校ほど良いところはないでしょう。しかも若いですから頭も柔らかいし、スポンジのように吸水性バツグンですからね。
しかし、学校では学べないこともあります。そこで、ボクはこんな話をしました。
「ボクはこの仕事につく前にイラストレーターになりたいと思って、デザイン専門学校で講師をしている建築家の義理の従兄に、同僚のプロのデザイナーさんを紹介してもらってアドレスを受けたのね。そしたら『君の力量なら学校行かなくても見込みはあるけど、2年で300点くらい描けないとプロになれないよ』と言われたの。で、実際プロのデザイナーになってみるとね、2年で400点以上は装丁とかデザインしてる。言われたときは多いなと思ったんだけど、彼は少なめに気を使って言ってくれたんだね。」
「装丁というのは、書店に並べられたら書き手の人《そのもの》になるんだから、そこにデザイナーは寄り添っていかければならないよ。誰が書いたのか、どういう意図で書いたのか、誰が送り出すのか、誰が受け取ってどう感じる(感じてほしい)のか。このことをちゃんとリサーチして、常に頭に浮かべながら仕事しないと中身がすっぽ抜けちゃう。こうなったら装丁とは言わないんだ。」
学校でトレーニング出来ないのは《質と量と早さ》《送り手(自分ではない)と受け手のことを考えて制作すること》、これらを全てリンクさせることです。
例えば装丁などでは本一点につきラフデザインを少なくとも3案考えてプレゼンするところから始まります。日によってはスケジュールの都合で3冊別々の本のラフデザインを提出することもあります。つまり一日で9点ラフデザインを制作しなければなりません。平均して依頼から提示までは2週間弱ですが、ほぼ毎日依頼があります。つまり制作時間は自ずと短くなりますので迅速に作業せねばなりません。当然クオリティは高く、しかもクライアントの提示する予算に収まるように。著作者や編集者や出版社の意図を汲み取った上で、手にとる読者に喜びと驚きと満足が得られるように最善を尽くします。
デザイナーとは相手(それは著作者だったり編集者だったり読者だったり)に寄り添い、相手を映し、相手と同化する仕事なのす。
しかし、こういうことって、流石に学校では教えにくいよなぁ。
彼女も現場に出れば自ずと学ぶことでしょう。ガンバレ。