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バストロンボーン奏者の黒金寛行さんにご案内を受けてトロンボーンクァルテット・クラールの第四回レギュラーコンサートを聴きに、久しぶりに王子の北とぴあへ。
彼の所属するトロンボーン・クァルテットは知っているだけで3つあるのだが、これは学生の頃から活動している最も古いもの(といっても彼、とても若いので結成7年めくらいなのだけど)。第一回トロンボーンクァルテット・コンクールINジパングで優勝した実力派だが、メンバーの留学など様々な理由により一時活動休止し、今回約三年公演ということ。
学生時代からの気心しれた仲ならではのメンバーの自然な信頼感と志の高さが、見事なアンサンブルワークになっている。
会場にいらしていた村田陽一さんも日記で書かれているが、音色が美しく演奏も素晴らしいのはさることながら、全曲《暗譜》なのだ。あれだけ複雑な譜面を全員が全曲覚えているというのは、逆に、メンバー全員がすっかり吸収し会得した音楽しか人に聴かせない、という信念の表れでもあるのだろう。とはいえ、コンサート丸々ひとつ分、しかも本プログラムに自分達のオリジナルアレンジはひとつもないのだから驚きだ。ボクは仕事柄、作り出すことはあってもあまり覚える必要はない仕事だ。正直、覚える作業が極端に苦手だから、職業にデザイナーを選んだといってもいい*1
話がそれた。どちらにせよ、譜面を見ることから解放された音楽家は、見た目だけでなく、音楽そのものが自由だ。ジャズにおけるインプロブゼーションしかり、暗譜しかり。全てを知り尽くしているからこその自由。
そうか、自由とは「好き勝手」とは違う。血肉になった知識と、仲間との信頼関係から生まれる。
尊敬すべき若者たちだ。脱帽。

トロンボーンクァルテット・クラール第四回レギュラーコンサート
2010年9月27日(月) 北とぴあ つつじホール
 
曲目
・スケルツォとコラール(F.ヒダシュ)
・4声のパドゥアーナ〜「音楽の響宴」から〜
 (J.H.シャイン arr.スローカー・トロンボーン四重奏団)
・フーガト短調
 〜平均律クラヴィーア曲集第2巻 プレリュードとフーガ第16番」から〜
 (J.S.バッハ arr. E. ウィリアムズ)
・トロンボーン四重奏のための組曲(A.チェイス)
・パ・ドゥ・クァトル(E.ベース)
・ファルスタッフィアーデ
 〜ソロ・バストロンボーンと3本のトロンボーンのための〜
 歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」の主題による変奏曲
 (J.クーツィール)
・エチュードNo.1&4〜
 「トロンボーンのためのメロディアス・エチュード」から〜
 (J.ロッシュ arr.村田陽一)
・クァトル・ア・クァトル(J.ノレ)

演奏も勿論だが、披露された音楽もまた最高。トロンボーンの音色を存分に楽しめる「スケルツォとコラール」「4声のパドゥアーナ」「フーガト短調」、トロンボーン吹きの琴線にイチイチ響いてくる「チェイスの組曲」、トロンボーンによるバレエを音で魅せてくれた「パ・ドゥ・クァトル」、ソロ・バストロンボーンは勿論、伴奏パートだってトンでもなく高度な技量と音楽性が求められる「ファルスタッフィアーデ」、本家4BoneLinesのとはまた違った味わいが示され、譜面としての幅の広さが感じられた「メロディアス・エチュード」、トロンボーンによるアメリカン・ダンスの神髄「クァトル・ア・クァトル」。アンコール2曲めのの吉松さんの「5月の夢の歌」は、聴いただけで涙が止まらなくなるという、センチメンタル・スイッチが思わず入ります。ボクも好きな曲なので嬉しかったよ。案内をいただいた黒金さんに改めて感謝。

*1:いや、覚える事、ボーダイにあるんですよ。なんたってデザインは知の集大成と情報の制御ですから。ただ、その場で「人に諳んじてみせる」という作業はないでしょ。