遠き山に日は落ちて

夕刻、水曜朝イチの締切りに間に合わすべく急いで宅急便を出しに行って帰って来たら、犬が「なぜオレを散歩に連れて行かぬ」と腑に落ちない顔をするので仕方ないから連れて行く。
しかしウチの犬は暗いのが怖いのだ。最初は意気揚々と得意げになってボクを引っ張り引っぱり歩いていらっしゃったが、次第に空が赤く染まってくると不安の色を隠せずボクをチロチロと振り返る。この巨大な関東平野の南に位置するボクたりの街は山から遠いとはいえ、日が落ちるとあっという間に暗くなる。
あまりにも犬が気の毒なので刻々と光が届かなくなる住宅街を家路に急ぐことにする。
しかし夕暮れとは誠に不思議な時間帯で、庭で巨大なダンベルを振り振り「フン・フンッ」と鍛えているオッチャンや、家の前で黙々とバットの素振りをする少年など、昼間だと明らかに気恥ずかしいことでも何となく出来てしまう。ところがそういう風情を楽しむ余裕は犬にはない。もう後ろを振り向いてもボクの顔も見えないのでヒタスラ前を向いて黙々と歩いている。
やがて家の前に付くとキャーキャーご満悦である。先ほどはあれほど外に出たいと言っていたではないか。ネコの目の様に気分が変わる犬だ。