あの日からのマンガ

しりあがり寿さんの「あの日からのマンガ」を読みました。発売直後からとても話題で、ネットを含めあらゆる書店で非常に手に入りにくかったのですが、書店員をしている友人に残り少なくなった1冊を何とか買っておいてもらいました。しかも家までわざわざ届けてくれた。amazonよりスゲー。kamoe感謝!
さて、「あの日」というのは3月11日の事です。その日からしりさんが新聞や雑誌などで描きづけたマンガを時系列に掲載するという手法で編集されたマンガたちは、彼が「あの日」からの日々に何を思い、どう行動し、どう考えるのかという変遷を辿る事が出来ます。放射性物質のような忌み嫌われるモノでさえも、それ自体には罪のないモノとして愛おしく描くことにより、本当に忌み嫌うべくは何なのかを皆に問いかけているようです。そして希望というのは誰かに与えてもらうものでなく、自分たちで切り開くモノなのだという作者の強い意志を感じるのです。
溜まりに溜まっている仕事を押しのけてまで請負った*1、しりさんの大学の後輩でもある祖父江慎さんのブックデザインも、「あの日」は突然始まり(なんせ最初のマンガはカバーの表1面なのですから)、これからもずっと続くんだよというメッセージ性があります。今やブックデザイナーを志す人が誰もが羨望する祖父江さんの仕事の真骨頂がここでも示されます。
しかし、ブックデザインに関わる目線からは、今回の祖父江さんの仕事は別の面でも唸らされます。
祖父江さんの仕事というと、デザイン誌や企画展やテレビなどでは、とかく奇抜なアイデアと限度を知らない拘りばかりがクローズアップされていますが、祖父江さんの本物のプロたる所以はデザインの芯はぶれないようにしながらも、状況に応じて柔軟な図書設計が出来る所です。今回は流通上で品薄なことからも、初版が少なくかつスピードを優先させたことが分かります。コミックですから価格も高い本ではありません。資材も手に入りやすいもので(それでも本文用紙は2種類と変化を付けている)、カバーもスミとありふれた特色の2色刷(帯も同じ)。カバーも表紙もその中面も全て事実上本文として扱うことによって本文用紙の半端分を稼いでいます。無駄が全くないのです。しかも印刷製本技術的にも難しくない。普段皆さんが見とれている祖父江さんの奇抜な造本の全く真逆が自然に行われています。
2刷りも決まったということですので、皆さんも是非お読み下さい。

あの日からのマンガ (ビームコミックス)

あの日からのマンガ (ビームコミックス)

しりあがり寿さんと言えば、twitterでも独自の存在感を醸し出している人(@shillyxkotobuki)です。興味のある方は、そちらの方もフォローしてみて下さい。

*1:あとでしりさんが各社の編集の皆さんにtwitterで謝っていたのが可笑しかった。