ピカイチくん

皆さんプリントゴッコをご存知だろうか? つい最近まで生産されていた家庭用謄写版印刷機である。理想科学工業株式会社から発売されていたそれは、学校くらいでしか使えなかった謄写版印刷を一気にご家庭に浸透させ、年賀状などはこれナシには制作が考えられなかった程のヒット作だ。年末になると家の床という床がプリントゴッコで刷り立ての各人の年賀状を乾かすために占拠され、家族の攻防戦となったものでござる。
謄写版印刷というのは蝋(ロウソクの原料)が塗られたシート(ロウ紙といいます)に鉄筆などで蝋の部分を削り、その部分にインクを盛った版を使って紙に謄写する仕組みで、昔はガリ版と言われた(コクリコ坂で詳細に出てくるので必見)。その後、鉛筆など炭素を含んだ筆記用具で書いた原稿をロウ紙に密着させ、光で焼き付け蝋を溶かして版を作る仕組みが出来て、これがプリントゴッコの直接のテクノロジとなる。
しかしプリントゴッコもパソコンやプリンタの普及、さらには電子メールの普及に押されて人気がなくなり、2008年夏に生産を終了しているが、備品のみは今でもメーカーのサイトで購入可能だ。
 
で、さて皆さん、ピカイチくんをご存知だろうか? ナニ知らない。そうだろう、ボクも知らなかった。世の中家庭用謄写版印刷機といえばプリントゴッコ以外にあったのかとお思いのアナタ。あったのだ、対抗馬が。

それがこれである。emixの静岡の家の倉庫に眠っていた「ピカイチくんジュニア」を自宅に持って帰って来た。

堀井謄写堂株式会社(ホリイ)製。エジソンが発明した謄写版印刷(ミメオグラフ)を日本の実情に合うように堀井新治郎が改良を加え1894年に創業、19正世紀終わりから20世紀後半まで日本を始めアジアの印刷を支えた業界の雄であったが、他の印刷機に押されて規模を縮小し、ピカイチくんを発売した数年後、1987年に謄写版印刷機の生産を中止した。その後OA事務用品の卸会社に業務変更したものの、2002年に倒産している。ピカイチくんはイタチの最後っ屁のようにプリントゴッコの後追い商品として発売された為、全く目立たなかったと思われる。
一方、理想科学工業は戦後に創業という後発ながら独自の全自動孔版印刷機「リソグラフ」を高速で印刷コストの低いOA機器にまで昇華させ、長年主力商品だったプリントゴッコなき今でも教育や自治体などの現場で独自の存在感を示している。

彼女曰く「プリントゴッコ全盛だった時期に親がどういった経緯でこの商品を知り購入したのかは不明。」兎に角emix家ではプリントゴッコではなくピカイチくんで年賀状が制作された。取扱店も少なかったそうだから消耗品調達も大変だったろう。

しくみはプリントゴッコと全く同じ、原稿をセットしてフラッシュ電球を使って専用の製版ロウ紙に焼き付け、インクを盛ってペタペタと印刷する。プリントゴッコと違う所は、フラッシュユニットが内蔵型で印刷面も上下逆になるところである。備品も含めデザインがどことなくプリントゴッコに似ているため、パチモン扱いされても仕方がなさそうだ。

インクや製版ロウ紙が残っていたため、制作に挑戦してみようかと思ったが、何故かフラッシュ電球が1個しか未使用なものがなく(2個セットで使う仕様になっている)、光が全体に回らないと上手く製版出来ないので断念。プリントゴッコの様に交換部品が手に入る訳ではない。謄写版印刷の雄がその斜陽期に放った報いの矢をここに画像として収めておくに留めておこうと思う。