雑誌の何が終わり、何が始まるのか。


雑誌の創刊号の復刻版を付録にするという動きがここ数年流行っています。雑誌というものは、かつては「良くも悪くも最新情報が載るだけの保存するに足らない媒体」として扱われてましたので、安価で手に入らなければ意味がないため印刷や紙や製本も簡易でしたし、よもやアーカイヴとして保存するというこはありませんでした。それは本来書籍の役目でしたし、雑誌をアーカイヴする場合は合本などにして新たに装丁を仕立て直した書籍が作られたものです。
創刊号をそのまま、または縮刷して自誌やメイン商品の付録にするということは、その雑誌がある時代を担ったという自負であり、その時代を切り開いた創刊号がパッケージとして保存に値するという文化的(そして商品的)価値を見出したからだと思いますが、雑誌がメインで情報化社会を引っ張る役割を終えたことを、自身で認めたようなものでもあります。
皆さんもご存知の通り、最新の情報やサービスを得るには今や、何においてもWEBを抜きには語る事が出来ません。エディターの手が入ったニュースサイトやWEBマガジン、個人のブログサイト、企業や商品のPRサイト、個人が欲しい情報を効率よく探すためのツールであるGoogleなどの検索エンジンや、最近はtwitterやfacebookなどのSNSによって瞬時に得る事が出来ます。スピードとオンライン性は雑誌や新聞が目指して来た所ですが、WEBはそれをすっかり実現してしまいました。「最新情報が載るだけの保存するに足らない媒体」としての雑誌の役割はおろか、最新でなくても個人が欲する情報がフラットに検索出来るのですから、知のアーカイヴとしての書籍の役割まで、その座を奪いつつあります。だいたいこのテキストですらブログで発表しています。
ところが、WEBにはWEBの、(印刷物の)雑誌や書籍(つまり出版物)にはそれの特徴というものがあり、必ずしも良し悪しはつけられません。WEBはそれぞれの受け取り側の環境によって見え方も異なっていたり、絶えず情報が更新されていくため、情報がアップロードされた瞬間からその形が固定されていません(受け手の閲覧環境もそれぞれですし)。だからこれらの創刊号の復刻版のように流布された形をそのままに皆に再現して見せることが出来ないのです。
最新の情報も過去の情報もフラットに認識するWEBの世界では、その情報が新鮮かまたは有用かどうかは受け手側に完全に委ねられますが、出版物というのは常に時代の状況や技術的影響を受けて印刷され流通されます。媒体は経年劣化をしますので出た瞬間から今までの時間の積み重ねが付きまといます。そういう意味で復刻版は視覚的&触覚的に見るものに時空の経過と積み重ねを(擬似的に)感じさせる、面白いツールです。
さて、今回手に入れた「月刊ぴあ」の創刊号復刻版は、「Bi-Weekly ぴあ」の最終号に付録されました。公演チケット総合誌として文化芸術やエンターテイメントをフラット化して世に広め時代をリードしたこの雑誌の最終号が、創刊号の付録というタイムパラドックス的な手法で幕を引いたことは見事です。
しかし及川正通さんという希代のイラストレータによる表紙ジャケットも、もう見る事ができない訳です。
乱暴な言い方をすると「ジャケ買いする《最後の》雑誌」がなくなった、という意味でもあり、雑誌を手にすることで「今という時代を手にしている」という感覚を得ることが出来なくなった、という意味でもあります。雑誌はその役目を確実に変えなければなりません。
最後にそのヒントとして、もうひとつ印刷出版物とWEBとの違いを挙げておきます。印刷出版物というのは、良くも悪くもネットワークとは切り離されてエディットされパッケージされているということです。エディターや著者の意図に沿って整理整頓された情報や考え方を一旦は身を委ねて読み進めるのです。
WEBの世界は自分で情報の整理整頓をし自分の意見と表現する力を持っていなければ、有用な情報を受信することも発信することも出来ません。しかしパッケージされた出版物は編集という手段によって整理整頓されナビゲートしてくれるのです。そしてWEBはよほど注意しないと「必要な情報しか手に入らない」のです。自分に一見無用と思われる意見や表現は見過ごしがちor無視しがちになるということは、自分にはない新しい考え方や表現の仕方に出会う可能性を実は狭めてしまいます。エディターや著者の意図にワザとハマって印刷出版物の中に身を委ね、ある意味逃げ場のないんだけど無限ではない領域を眺めたり咀嚼したりすることにより、自分の制御出来る範囲内で思いを巡らすことが出来るのです。これはオフラインである印刷出版物の特徴だと思います。
ボクは印刷雑誌はフリーペーパーのみになってしまうとは全く考えていませんし、出版とWEBが相反するものだとも思っていません。オンラインとオフラインを相互に補完し合いながら、新たな世界観がそこに立ち現れることを願い、出版に関わる身としてその努力を自身でも惜しまないことを誓いながら、今日のテキストを終えたいと思います。
※今回、出版・書籍・雑誌という用語について一見混同したような用法をしてますが、自分なりには整理しています。しかし、かつては「雑誌と書籍が接近しつつある」なんて議論が真剣にされてきたくらいのトピックスでしたが、WEBが浸透した現在は雑誌も書籍もその流通スピードや視覚的用法においてはWEBと比べ物にならず、大差ないので、乱暴に同義として扱ってもよいところが多いとも思うのです。

ぴあ [最終号]

ぴあ [最終号]