改訂版

初夏に装丁の依頼を頂いた本が出来上がりました。日本の伝統色の本ですが、専門家向けというよりも、日本の色彩感覚についてのトピックを知るのが好きな方などに向けた、わかり易い解説書です。
改訂版の装丁を、しかも自分が前の版を手がけていないのにお仕事としてお受けする場合は、色々な所に配慮せねばなりません。
改訂版の装丁のオーダーとしては「前版の流れで」と「前版とは全く違うイメージで」という大雑把に2つの流れがあるのですが、今回は前版と違うデザイナーに依頼をしたのだから後者であろうことは明白です。
しかし、版元さんとしての佇まいまで崩してはなりませんから、そこは予め頭に入れておかねばなりません。いくら「デザイナーさんの自由な発想でドラスティックに変えちゃってください」と編集の方が仰られても、ターゲットとなる読者層と版元のデザインポリシーを装丁で変える事までは望まれていないのです。
それでも尚かつ「変わった!」「新鮮だ!」と思っていただかなければ、改訂版として編集を練り直して討って出る意味がありません。その距離感をどう計って行くかが肝です。
ここに編集さんや販売さんとの打ち合わせから、いかにイメージに対するキーワードを聞き出せるかというリサーチ力と、それを咀嚼し提案出来る引き出しの数が求められます。打ち合わせの中で「この人に頼んで大丈夫か」という不安を抱かせないようにしないことです。デザイナーに求められるのは反応速度です。
最後はそれを現実の紙面に落とし込める技術力。相手に説得力のあるデザインを作成するためには、正しい技術が必要です。
技術とは基礎知識と膨大なデザインの経験によりより正しい方向へ修正されていきます。そうでないと意図してデザインをキめ込んだりハズしたり出来ないのです。独りよがりだったりハズレちゃってるデザインとは全く似て非なるものです。逆にデザイナーはシャープでストイックなモノばかりが表現として最高とは思わないで下さい。商業デザインにおける表現とは受け手によって「響く」帯域が違うのです。だから自由にキめたりハズしたりする技術が必要なのです。
出来上がった本を見ると個人的には「あぁ、もっとこうすりゃヨカッタ」とか「同業者にはヘタクソ〜とか思われるかしらヤッパシ」とか凹みながら眺めたりもすることもあるのですが、それでもこの世に編集の方や著者さんと力を合わせ、自分も責任もって世に送り出す本です。
内容も充実しており大変親しみやすい本ですので、是非是非お手に取ってみてください。