キラキラヒカル

装丁を担当させていただいた「雅楽を知る事典／遠藤徹著（東京堂出版刊）」が出来上がりました。
この本の装丁を依頼していただいた編集者の渡部俊一さんはこの世にはもういません。昨年の正月に装丁のラフデザイン案を見て頂いた直後に病に倒れ、面会謝絶のまま半年後に天国に旅立たれてしまいました。
彼とは本当に沢山の本を作りました。制作中に意見が食い違って本気で喧嘩した事もありますが、だからと言って仲が悪くなった事は一度もありません。ずっと一緒に本を作ってきたかけがえのない大切な人でした。お互い音楽やが好きだったこともあり、ジャンルを問わず本当に沢山の音楽の本を作りました。一緒に山の様に積まれた民族楽器の撮影に出かけました。お互いウクレレ初心者のママでした。二人でボサノヴァやハワイアンの本を作るのが夢でした。この仕事が終わったら一緒に浄瑠璃を見に行こうと約束していました。
だから彼の葬儀に参加してもまるで実感が湧きませんでした。だってこの本のデータをまとめたフォルダは〈ラフデザイン提出済み〉の印が付いたまま、ずっとボクのPCの〈仕事中フォルダ〉に入っているのですから。またいつもの様に「otoshimonoちゃんさぁ、こ、こ、この前の雅楽のヤツさぁ、もうちょっと、もうちょっと待ってよね。先生がさぁ、もうちょっと内容詰めたいっていうからさぁ、ゴメンねゴメンね。んだばだば、よろしくね。」って電話が来そうな気がしてならないのですから。
しかし、遂に引き継いだ別の担当編集者さんから制作を進めて欲しいと連絡が入りました。著者さんが脱稿したのに刊行しないわけにはいきませんから。でも何だかこれを仕上げてしまうと彼とは本当に会えなくなってしまう気がして悲しい気持ちになりました。でも、いつも陽気で目をキラキラさせて本を作る彼のことですから、本が出るのに悲しいなんて言えば怒るに決まっています。
だから、今回は本扉に光にかざすとキラキラ光る「シャイナー」という紙を使いました。いつまでも彼の本への情熱が本と共にありますように。

　
渡部さんと一緒に作った本から