松平 敬 バリトン・リサイタル


「松平 敬 バリトン・リサイタル〜対話する歌〜」12/14(東京オペラシティリサイタルホール)
松平さんは「こえ」を用いた自在な表現で聴く者を心象の旅へ誘ってしまう稀有な存在の一人です。そんな彼がリサイタルの演目としてセレクトした曲の数々は、形容し難い程の思想的広がりを持ちながらも「対話」という目に見えない糸で絶妙な網目を織り上げています。
ピアニストとして出演された中川俊郎さんは、手元や表情だけを見ると不真面目に遊んでいるようにしか思えないのですが、繰り出される音楽は微細にまで神経が行き届きながらも自由。どの曲も今〜目の前で中川さんが作曲しながら弾いているかのように聴こえるのに、松平さんの音楽とも完全に一体化しており、神がかっているとしか言いようがありませんでした。
演奏の感想を書き始めるとキリがないのですが4曲ほど。
「長谷川四郎の猫の歌」(高橋悠治)は、平野甲賀さんに捧げられたとノートにあったけど、ナルホド、平野さんのタイポグラフィそのもの思える諧謔と哀愁が同居する音楽。
「楽器と声」(アブリンガー)の、入力される言葉と出力されるピアノの音、入力されるピアノの音と出力される言葉の〜一致〜ズレから生まれる聴き手(つまり私)の認知と感情の変化。(*12/15に文章を微編集)
「水玉コレクション No.02」(山根明希子)で前に座っている女の子たちがずっと口を押さえて震えながら笑い続けていたのですが、これは全くもって良い反応。
また最後に演奏された「猫町」(西村朗・委嘱世界初演)は、とぼとぼと疲れたようにステージに現れる猫姿の中川さん、しかし、ユーモラスな姿とは裏腹にガツンガツンとピアノを弾き始め、松平さんは迷い込んだ世界に翻弄され歌い続ける。そして、クライマックスで登場する黒猫姿の妖艶な工藤あかねさんが現れ・・・。まるでミニシアターで萩原朔太郎作品を鑑賞しているかのような味わいでした。
昨年末にデザインのご相談いただいてから1年、敬愛する松平さんのお仕事にこうしてたずさわることが出来たことを幸運に思います。