ソナタと定食

デザインした書籍の雑誌用広告も制作した関係で「吹奏楽の星[2015年度版](朝日新聞出版 刊)」の見本がクライアントから届く。アートディレクションがしっかりしており、写真のセレクトやレイアウトの風通しも良く、好感が持てる紙面。
もっと専門的にいうと、限られた時間で、いかに効率的に美しく単調にならないデザイン制作を実現していくかというワークフローまで考えられている。
こういった速報&ドキュメンタリー系のムックというのは、ともすれば欲張りすぎてレイアウトが破綻したり、逆にスカスカの大味になりがちで、非常にさじ加減が難しい。
紙面デザインというのは地紋やアイコンや囲みで素材を飾り立てる事ではない。文章や写真やイラストレーション(つまりテーマ)から導き出したセオリーに従って空気のような存在感で、読者の頭の中にスッと内容が入っていくようにサポートすることである。たぶん、それは、ソナタを作曲すると似ている。
実の事をいうと、このムックのデザインは優れてカッコイイ訳ではない。ほかにもカッコイイ雑誌はいくらでもある。しかしながらカッコイイ雑誌は、「おデザイン」されちゃっていて、いずれ飽きてしまう。このアートディレクターはそこをよく分かっています。
物凄く美味しいお洒落ランチを毎日食べたいとは思わないですよね。味は魅力的だしロケーションは最高、でも、どこかトゥーマッチな感じがします。一方で「美味し過ぎない」普通の定食屋は毎日お昼に寄れる。物凄く美味しいお洒落ランチを作れる技術も素晴らしいけど、毎日食える定食を作れる技術はそんなに簡単ではないんです。
そういったバランス感覚の良さをこのムックのデザインから感じました。