ブリリアント

otoshimono2007-12-14

朝の通勤ジョギングをしていると、ゴール駅近くの川の辺に銀杏が黄金色の葉をハラハラと落としながら佇んでいる。落ち葉に敷き詰められた地面を見るにつけ、季節はちゃんと冬に向かっていることを実感すると共に、ある曲と音色を思い出す。
 
「もっかい吹くけん、どこがよぅないか、教えてや*1
あれは高松で過ごした中学時代、2年のソロコンテストのためか、高校の音楽専修コース受験のためだったか、今となっては記憶も朧げなのだが、とにかくその冬、shiroはアーバンの「華麗なる幻想曲」を猛練習していた。
その頃、ボクにとってshiroは世界一上手いトランペット吹きだった。プロの先生にレッスンもついていて、どんどん上手くなっていった。ボクはshiroの行くところには何処へでもついて行ったし、彼の演奏をずっと聴いていた。shiroはどういう訳か、楽器演奏の才能のないボクの音楽鑑賞力の方は信頼してくれ、よく意見を求めてきた。
shiroの家はと岩清尾山いう小高い山の中腹にあり、帰り道には眼下にJR四国の車両基地が、遠くには瀬戸内海と島々が見下ろせる、コンクリで固めた広いした斜面があった。すっかり紅葉した山をバックに、暮れて赤く染まっていく風景を見下ろしながら、宇宙の真理について中学生の足りない頭でアプローチしたり、次のエンパイアブラスのアルバムについて語り合ったり、好きな人の話をしたりした。時々はそこでshiroはトランペットも時々吹いた。こう書くと、何だかスンゴイ青春絵巻だが全くその通りなのだ。
で、ボクは彼の吹く「華麗なる〜」をすっかり覚えてしまった。特にプレリュードの部分はクッサくてロマンチな曲想なのだが、いつの間にかボクの頭の中で、初冬の瀬戸の夕暮れや金色の落ち葉が風に舞う風景と合体してしまった。演奏はもちろんshiroのトランペットである。ただしその音色とテクニックはドクシツェル*2くらい美化されてしまっているが。
 
銀杏の葉が落ちて、木の幹と枝自体が、今度は碧い空という葉の葉脈の如く密やかな生命力で凛と張り詰めると、冬も本格的になってくる。ブリリアントな輝きを経て、冬こそ本当に実りの季節であることをshiroのトランペットと紅葉する木々は教えてくれたんだと思う。

*1:「もう一回吹くので、どの部分が良くないのか教えてくれませんか」の讃岐弁による表現。

*2:ロシアのトランペット奏者(1921〜2005)