ブラッシュアップ

「最高の素材さえあれば、誰だって一流のモノが作れる」「最高の素材なら、何もしなくても皆は良さを分かってくれる」なんて嘘だ。
一流の素材を当たり前に一流だと感じてもらうには、実は相当な技術がいる。
それはブラッシュアップ、つまり「磨きをかける」能力だ。
大体の大枠を掴んでアタリをつけ「こんな感じ」なところまで持って来るのは、ある程度の能力さえあれば出来る。
でも、それが微妙に間違ってたりした時に、軌道を微修正しながら丁寧に作り込んで、常に正しい道に戻していく作業というのは、ノリだけでは出来ない根気のいる作業だ。そして、さらに磨きをかけ、誰が見ても納得できるクオリティにするのは本当に力がないと出来ない。
世の中にある、みんなが当たり前だと思って見たり聴いたり食べたり使ったりしているものは、そうやって出来ている。
映画だってオーケストラだってカップラーメンだってクルマだって、全てそうだ。
何でこんなことを書くかというと、自分にはまだまだそういう「軌道を微修正」しながら「磨きをかける」丁寧な力が足りないことがよく分かったから。今のうちに日記に書き記しておこうと思ったからだ。
実はこの夏、何度作り直しても全く上手くクライアントが納得してくれない仕事があった。素材は世界最高峰だし、提供された写真やテキストも素晴らしい。なのにシンプルに作っも「味気なく目立たない」と言われ、インパクト強くしても「センセーショナル過ぎ」と言われる。出したプレゼン用ラフが軽く30パターンを越えて、渋々妥協してくれた感じだ。
「次の仕事はotoshimonoさん含め他のスタッフの方のデザインも下さい。これで駄目なら他の事務所探しも検討させて頂きますから」。そう言われて挑んだ次の仕事はボクの案でアッサリ決まった。ところが印刷所入れした後の色校正の段階でメタルインクを使うボクの意見と、通常の四色刷りでいきたいというクライアントの意見が一致せず、結局クライアントの意見を優先させた。
「otoshimonoさんの弱点はそこにあると思います。otoshimonoさんはアイデアやデザインの引き出しが他のデザイナーさんよりかなり多くて、『一発OK!』の場合にはトントン拍子でフィニッシュへたどり着きますし、素材の見せ方が難しかったり、遊び心が必要な場合にはバッチリで助かります。しかし、素材がシンプルだったり、ダメだった後の軌道修正やブラッシュアップ力には残念ながら他の事務所の方々に及ばす、こちらとしても消化不良になることがあります。(メールの原文のまま載せると申し訳ないので要約してあります)」
ここまでハッキリと欠点を指摘して頂いたクライアントもないのだが、この夏ずっと悩んでいた『デザイナーを始めてから13年も続いた《長いビギナーズ・ラック》後の仕事の方向性』に大きなヒントを頂いた気がして有り難かった。
『磨きをかける』、これは一種の引き算である。根気の引き算。見極めの引き算。落ち着いた精神の中で今以上のトライ&エラーを黙々とする能力。
とにかく丁寧に生きていこうと思う。