ブラス・ヘキサゴンVol.5


ブラス・ヘキサゴンの第5回公演で東京文化会館へ。データを紐解いて見るとボクがこのスーパーアンサンブルのお仕事を手伝いさせて頂くことになって実に4回目。満員のお客様に、知名度も安定してきたなぁと実感。
さて、ブラス・ヘキサゴンのメンバーといえば、辻本憲一(tp)・長谷川智之(tp)・森博文(hr)・箱山芳樹(tb)・外囿祥一郎(euph)・池田幸広(tb)だが、作家陣である前田憲男・天野正道・伊藤康英・村田陽一・伊左治直・樽屋雅徳・和田信・中橋愛生の存在を抜きに語ることは出来ない*1
今回もメンバーの超絶テクニック&アンサンブル&唄心に唸りつつも、作家陣の紡ぎ出す音楽の素晴らしさに心を打たれた。
以下、セットリスト。

・カンタータ146番「我らは多くの苦しみを経て」より
 「どれだけ私は喜ぶだろうか」
 J.S.バッハ/arr. 辻本憲一
 
・アブデラザール組曲による変容
 天野正道 (委嘱作品・初演)
 
・「テレッセーミ」より III. マンシニア
 F.ディドス
 
・King of Glory 〜絵のない絵本 第29夜〜
 樽屋雅徳
 
・アメイジング・グレイス
 arr. 和田 信
 
・フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
 B.ハワード/arr. 前田憲男
 
・故郷の人々(スワニー河)
 S.フォスター/arr. 伊左治 直
 
・ニューヨーク・ニューヨーク
 J.カンダー/arr. 前田憲男
 
 en
・アンダーソンのおもちゃ箱
 伊藤康英
 
・枯葉(tb solo 箱山芳樹)
 J.コズマ/和田信
 
・「ラブ・シング・アンド・ダンス」より ダンス
 前田憲男

今回、編曲作品自体が初めてというメンバーの辻本憲一によるバッハはオルガン・サウンドの上にトランペットが煌めくという構造を見事に再現し、天野正道はパーセルの「アブデラザール」を見事な手際の良さでプーランクの「フランス組曲」の向こうを張る新曲として再構成して見せ、唯一の海外作家によるディドスのテレッセーミはニューアルバム収録曲というラインナップながら日本の童歌がモティーフになっている面白さとこのアンサンブルのテクニックの素晴らしさを引き出した。
後半の樽屋雅徳作品のファンタジックなファンファーレ、和田信が幼い頃より親しんできた教会音楽の響きから紡ぎ出された記憶の中のアメージンググレース、スタンダードな中にも気鋭の作家ならではの響きが織り込まれた伊左治直のフォスター、そして大御所・前田憲男のスタンダードながら自由自在な音楽たち。
アンコールの3曲も刺激的。これでもかというくらいの音楽的遊び心でめくるめくアンダーソンを表現した伊藤康英作品、誰もが前田作品と見まがった程の作家としての底知れぬ筆力で書かれた和田信の枯葉、そしてヘキサゴンのシメといえばの定番になった3rdアルバムのタイトルチューン「ラブ・シング・アンド・ダンス」。
どれもが音楽として最高である。
打ち上げの席で天野さん(ここからは敬称です。おぢけづきました・笑)が仰ってたが「作曲家というのは建築士みたいなもんで、建てて(演奏して)くれる人がいないと設計図(楽譜)なんてただの紙切れ。こんな最高のメンバーに演奏してもらって作曲家冥利に尽きる」という言葉で表されているように、作家とプレイヤーの強固な信頼感あってこそ、音楽というのは本当の翼を広げて飛ぶのだということを改めて感じた夜だった。
ところで、ボクの斜め後ろでは来日中のフィリップ・スパーク氏が実に楽しそうに演奏会に耳を傾けていた。おそらくボクと同じ事を考えていたのではないだろうか。そして彼の創作意欲に新しい火が点くことに、1ファンとしても期待している。

*1:今回は歯切れ良く書きたいので敬称略です。皆さん呼び捨てスミマセン!