ディスカヴァリー・ユーフォニアム


小寺香奈さんのリサイタルにお伺いしてきました。彼女のリサイタルのデザインは4回目、最初は2008年からですからもう出会いは6年も前になります。
(彼女に怒られるの承知で書きますが)最初に彼女がボクに電話してきたときイキナリ「あの、ユーフォニアム奏者の小寺と申します。外囿さんのご紹介でリサイタルの件でお電話させていただいたのですが、ワタシ、どうすれば良いんでしょう?」って言われて「エエェッ?! えっと、まず兎に角会いましょう」と答えたのを覚えています。それで日を決めて打ち合わせたんですけど、半分悩みお相談室みたいになってました(笑)。
あの電話、彼女からすればリサイタルに関連したデザイン絡みの媒体について、どういう行程で進めれば良いのか、と聞いたんだと思うんですが、ボクには「私、この先どうしていけば良いんでしょう?」って言われてるように聞こえたんです。事実、彼女、自分の方向性について当時とても悩んでましたし。で、色んなやりとりをして、 岡崎正人さんに写真を撮っていただいて、デザインしたフライヤを見せたとき「私、自分がどういう演奏会をするのか、これを見て少し判った気がします」って言われたんです。彼女の自分自身との対話が始まったのかもしれません。
それから3年おいて2011年2012年と2回リサイタルを進めながら、やりたいことはそれなりに見えてきている気もして、でも他にも考える事が出て来ていて、やはりまだどこか決定的な確信を持てない彼女の姿がどこかしらあったようにボクには映りました。で、2013年、ドイツに留学します。留学に出る前「今キチンと勉強しないと後悔するから」と言っていたのが印象的でした。
で、この春ドイツから帰ってきて、カメラマンの岡崎さんと神奈川の某秘境で撮って作ったのがこのフライヤーです。今までの雰囲気と違った決然とした雰囲気を持っていました。打ち合わせのときに頂いたリサイタルの内容も俄然シェイプアップされていました。彼女の中で何かが変わった気がする。
8月の山本裕之さんのfacebookでの投稿で「再演される《イポメア・アルバ》のリハーサルに立ち会ったんだけど、殆ど完成していた」という内容を見て、さらに確信が強くなったんです。彼女は自分の道を見出したのではないかと。
そして先週の本番です。ドイツで学んで来たことを優秀に披露する、といったレベルではない、自信に溢れた立ち振る舞いと、音楽を自分の中から発していく表現の力。プログラム構成に説得力を持たせる身体と一体化した音。小寺香奈でしか辿り着かない表現の境地。
当日パンフレットの中で「・・・ここ数年リサイタル・プログラムのなかで委嘱作や現代音楽作品を多く演奏してきましたが、今回からこの姿勢をより明確に、ユーフォニアムの新しいレパートリー群を創っていくことを目指します。」と彼女は宣言していますが、このリサイタルを聴き終えて、【ディスカヴァリー・ユーフォニアム】という副題は、ユーフォニアムの新しい可能性を発見するという意味ではなく、ユーフォニアムという楽器を使って新しい音楽そのものを発見していく、という姿勢に受け取ることが出来ます。
4回のリサイタルを経て、ユーフォニアム奏者という枠組みを超えて音楽家として確実な成長を遂げた彼女。次のリサイタルが待ち遠しいアーティストの一人になりました。