決戦は火曜日

朝9時過ぎ、飯田橋の駅に降り立つ。
外堀通りに架かる陸橋を越えて少し行くと、東京厚生年金病院健康管理センターはある。
そう、毎年ここを訪れては完敗を喫している忌まわしきコロシアム。年々悪くなる健康状態、出る一方のお腹、ドロドロな血。注意を促す医者たち・・・。だが今日でそれもオサラバだ。昨年の春、死ぬほど体調を崩した俺は、CTスキャンや胃カメラを駆使した結果、肝臓がフォアグラ状態の超メタボリックな身体と判明。以降今日までトレーニングと食事制限*1を重ねてきた。結果、体重は見事に落ち、筋肉は学生の頃並みの張りを取り戻した。走りも軽やか、マッハを越える日も近い。フフフ、健康の鬼神と化した今の俺には勝利の美酒しかありえない。
  
受付で問診票をカッコ良く手渡し、戦闘服*2に着替えてお小水を採りに男子便所へ。朝から水は一滴も飲んでないが余裕だ。
続いて颯爽とレントゲン。「深呼吸をして息を止めてください」なんて機械がしゃべりやがる。フッ笑わせんな。俺は何年トロンボーン吹いてると思ってるんだ。
お次は聴力検査だ。ヘッドホンをしてコントローラーを握り、音がしている間中ボタンを押し続ける。要はアンサンブルだ。指と音をシンクロさせろ! ここで年末年始にhakuhakuが持ってきてくれたwiiでの特訓がモノを言う。完璧なコントローラーさばきだ。礼を言うぜ。
そして視力検査だ。最近は眼鏡をかけたままでいいというヘナチョコな代物なので屁でもない。両目で1.2というハイスコアをたたき出した俺は小躍りしながら血圧検査に移った。
ところがここで少しアクシデント発生だ。機械がちゃんと反応しない。俺の筋骨隆々な腕に恐れをなしたか。ざまぁみろだ。2回めでOKが出る。まったくヒヤヒヤさせるぜ。
そして身長と体重を同時にはかる。体重は飲み会続きのせいでちょっと不満も残ったが、それにしても一年前に比べれば上出来だ。ところが身長はダメだ。ウン十年前にとっくに止まってしまった。
ここでラス前の関門、問診だ。今日は初老の女医だ。完璧なバァちゃんなのに「はぃ、息すってぇ〜ん」の声は妙に色っぽい。どうせなら40年前にお願いしたかったぜ。しかもこのバァちゃん先生、去年の所見を読みながら話を進めるので会話がテンでチグハグだ。
『食事制限しましょうね』「シテマスッテ!」
『中性脂肪は運動などで』「ダカラ、シテルッテ!」
『あら、そうよねぇ。そんな身体じゃないもの』「・・・・」
ラスボスは採血だ。着替えてから来いという。戦闘服を脱いだ俺はピッチリしたトレーニング用下着を着ていた。サポーター系下着のまま採血すると血が止まらなくなるという。しぶしぶ脱いだが、ここまで来ればもう大丈夫だ。俺は大体注射が得意だ。mittenにも負けない*3。血も去年と違って心なしかサラサラだ。静脈を通ったくすんだ血だが、今日は美しく見える。
勝った・・・そう確信した。
 
コロシアムを出ると街の喧噪が肌に伝わってくる。見上げた空が眩しい。本当の結果は数週間後に会社に郵送されてくるが、俺には達成感があった。
「来年はディフェンディング・チャンピオンか・・・」
そう呟くと俺は駅の人ごみに消えていった。(完)

*1:カップラーメンなんて1度しか食べてないもんね

*2:検診着のこと

*3:mittenはいつもヘラヘラしながら狂犬病の予防接種をこなしているらしい