すぐわからない《すぐわかる》話

書籍のカバーデザインの仕事をしていると「すぐわかる」「すぐできる」「わかりやすい」「やさしい」「カンタン」「あなたにもできる」「ビギナーのための」「速修」「図解」という前フリのついたタイトルにしょっちゅう出会います。いかに世の中は分かりにくいことに満ち満ちているのだろう、と辟易しますが、デザイナーは『それが誰にとってなのか』をキチンと考えてデザインに取り組まねばなりません。
例えば「わかりやすい」と前キャッチが付いたコンピュータ関係の書籍だとしても、キーボードの打ち方さえままならない人向けなのか、ビジネスソフトやインターネット環境にはある程度馴染んでいる人なのか、ソフトウェア開発に取り組まねばならない新人エンジニアなのか、他ジャンルのスキルも取り入れたいベテランなのかで、ビジュアルはモチロンのこと、文字組みやフォント選び、色彩計画など、見せ方が変わるのです。
イメージというのはなるだけ細分化し、具体的に掴まなければなりません。
『そんなの分かりきってるよ!』と思う方も多いと思いますが、まずは自分の常識を棄てて外に出て、ちゃんと周りを観察することです。だって世の中は日々動いているのですから、同じ購買層でも嗜好性は日々変わるのです。そうやって能動的に練り上げた案を提案して初めて、担当編集者と対等な立場で話が出来るし、生きた本を作っていることになるのです。
同じ《すぐわかる》といっても、なかなかわからないものですよ。