長島茂の会

ボクにとっては新ジャンルのお仕事。
なんと能楽です。


第16回 長島茂の会
出演|能 「実盛」 シテ:長島茂 ワキ:森常好
   狂言「樋の酒」野村萬斎 深田博治
   仕舞「井筒」 友枝昭世
日時|2012年10月26日(土)15:00開演
会場|十四世喜多六平太記念能楽堂
料金|一階自由席 8,000円(消費税込)
   二階自由席 6,000円(消費税込)
   すべて自由席ですが、十四世喜多六平太記念能楽堂にて
   追加料金2,000円で座席指定が可能です。
券売|チケットぴあ(Pコード 430-831)
   イープラス
   ちけっとぽーと
主催|長島茂の会
共催|文化放送

最初にお話を頂いたのは、まだまだ寒さの残る春先でした。別件の打ち合わせでご一緒させていただいた喜多流シテ方の長島茂さんに、ご自分の主催されている会のデザインをご依頼頂きました。
間接的に今まで能楽に関する書籍などは手がけてきましたが、公演そのもののデザインは初めて。お話を沢山伺ったり、実際鑑賞させて頂いたり、文献を調べたり、刺激的な日々でした。
最近の古楽にも言えることですが、コンテンポラリと背中合わせ、というか、もっと突き抜けてるかもしれない。伝統に雁字搦めかと思いきや、意外と自由度が高い。研ぎすまされた抑制の利いた高度な表現力は、演劇的に観ても、楽曲的に観ても、美術的に観ても、観る者の想像力を刺激させることに最大の力点を置く。その美しさ。
昨今、「分かりやすい」至上主義でエンドユーザーに対してイージーな商品やサービスしか提供しない《入り口だけ産業》がチキンレースの如く繰り広げられている世の中ですが、そういう事ではダメで、子供だって大人だって、良いモノに接した時は、その瞬間意味分からなくても心には必ず残るもので、それが時間と共に熟成される・・・これが大事なのだと思います。
 
デザイナー視点の個人的な感想としては、普通の公演や装丁なら「読みにくい」と即却下になってしまいそうな「かづらき」を、こういう形でタイポグラフィのキーとして使ってもOKが出たというのがとても嬉しいです。長島さん、開口一番「この書体、すごくイイですね!」ですから。
もちろんそれは、シテ方を始めとして、演じ手の皆さんが使われる曲目(演目の事)の謡本(脚本)が、今でも草書体で記されたモノが多く、読み慣れているという事実もありますが、ヘルマン・ツァップZapfino の様な第一級のタイポグラフィの系譜に連なるこの書体を、芸術の極みである世界に立っておられる長島さんたち能楽師の方々に判って頂いたということが、ただただ、有り難くて。
 
それと、デザイナー視点でもうひとつ。所変われば品変わる。良い意味での郷にいれば郷に従えな話題。

これ、裏面なのですが、能楽特有の表現がされています。特にプログラムとキャスティングの組み方法です。

クラシックや演劇等では演目や出演者は項目としては分けて表記しますが、能楽では一つにまとめてしまいます。そして、曲目、演じ手の(役割としての)上下関係などが高さや位置で表されています。最近は他の演劇やクラシック音楽に似た表記をする例も増えてきたのだそうですが、今回はトラディショナルな表記方法に準じてみました。この規則で組むと、人名などを揃えるために空ける部分が多くなり無味乾燥な仕上がりになりがちなのですが、筑紫シリーズの書体自体が持つ品の良さと全体としてのバランス調整で美しくまとまり、この表記方法の良さが際立ちました。
最初は「えぇ〜っ、わかりづらくないのかなぁ?」と思ったのですが、実際能楽を鑑賞してみると、この表記の利点が良くわかると思います。どうぞ一度、能楽堂に足をお運びください。