跡取り

本日、某老舗出版社の新社長さんのポートレート撮影でご自宅に伺っのだが、新社長さんだと紹介されて出て来た方がビックリ、数年前までボクと一緒に本の制作をしていた若手の担当編集さんだった。
彼女は(前)社長さんの娘さんだとは伺っていたんだけど、お知り合いになって程なく結婚されて学者さんのところに嫁がれたので、仕事は有能ではあったけれども、そういう展開になるとは思っていなかった。
もう一人、ボクの一つ上の大学の先輩で某温泉にある老舗観光グループのトップをされている方がおられる。この方も同じように稼業を継がれたのであるが、母方の実家であるため、学生だった時分はビンボークサい風貌に似合わず(失礼!)おっとりとした人だなぁとは思っていたが、まさか大御曹司だとは話を打ち明けられるまで夢にも思っていなかった。
実家はさして裕福ではない(場合によっては貧乏)が一念発起してベンチャーを起業された方、政治家になって活躍されている方なども友人知人には多数いらっしゃって、これはこれでとても素晴らしく、夢を実現するために実直に大胆に邁進する姿は美しいと思うが、生まれながらにして老舗企業の跡取りとして育てられ、その通りに生きて行く人の覚悟というものも相当なものだと思う。
確かに経済的・環境的には恵まれているので、大抵の面でのアドバンテージは他の人よりかなり大きいし、そういうシミッタレタ心配なしに幼少から青春時代を過ごした所為か、オットリというか、ガツガツしていないというか、考え方がシンプルというか、外からみれば明らかに《お坊ちゃん》《お嬢ちゃん》なのだろう。
しかし、多くの従業員の命を預かる使命、老舗のもつ社会的使命を負うことを決断した後(つまり跡を継ぐことを決めた後)の顔つきは一見以前と同じものの、そのオーラが一挙に出てくる様は圧倒される。しかも自分と同世代や年下なら否応がナシに感じざるを得ない。
顔つきが同じ(相変わらず)に見えるのはボクとは昔からの懇意なので、向こうが親しい感覚でいてくれるから「だけ」で、中身はボクの知らないうちに企業のトップへと羽化しているのだ。そのオーラは会うと明らかであるが、会わなくても電話口の声、メールの文面の端々にまで現われるのだから人の覚悟、老舗の血というのはスゴいの一言に尽きる。
そんなことを考えながら撮影に臨んだ。