トムソーヤ島

実に十ウン年ぶりに〈浦安鼠の郷〉に遊びに行ったのですが、版権管理と利権クレームにおいて世界屈指の制作会社のフランチャイズ施設なだけにガクガクブルブルで思い出写真をネットに流せません。自分や子供の顔を隠して鼠は顔見せの写真を公開する世のお父さんお母さん達はツワモノだと思います。
さて、ボクはこのテーマパークを中心に据えた卒業論文を学士時代に書かせて頂いた折にウォルト・ディズニー・カンパニーの創業者であるウォルト・ディズニーについて随分勉強したのですが、彼がディズニーランドというパークにおいて個人的に思い入れの強かった場所がいくつかあります。
それは、迫力のある映像パビリオンやスリルのあるライド系アトラクションではなく、ウォルト自身が子供の頃に憧れた冒険の世界、つまりマーク・トゥエインの描いた19世紀半ばのミシシッピ川沿いの風景でした。それを克明に再現して見せているのが、ウェスタンランドのアメリカ川沿いの風景です。島全体が「トム・ソーヤの冒険」の話をモチーフにした大きなジャングルジムのような仕掛け(インジャンジョーの洞窟、トムソーヤのツリーハウス、サムクレメンズ砦)のトムソーヤ島を取り囲む様にして、循環するアメリカ川を外輪船と筏が行き交い、時にウェスタンリバー鉄道と並走し、生態系が再現されています。船着き場や水辺の風景の佇まいなど、ある意味パーク内のどこよりも念入りなのです。
ウォルト自体は随分と人種や人権に偏った考えを持った人だったので、他のパークでの風景や人物描写は実にヒドイ(特にアドベンチャーランドの様な白色人種以外の描写のステレオタイプ感は、古いタイプのアメリカ人の世界観がよく分かるので逆に面白い)のですが、このアメリカ川周辺の風景は実に緻密です。
アナハイムのディズニーランドを作ったときにも、トムソーヤ島だけはウォルト自ら設計に関わった唯一のアトラクションだったと文献(伝記だったかしら)で読んだことがあります。
そういうこともあって、トムソーヤ島周辺はまるでウォルトの心の生き写しみたいな場所であり、ボク自身はディズニーランドの中でも一番好きな所です。色々やってきただけに色々言われた人でしたが、結局一番やりたかったのは、子供時代に夢中になった秘密基地を作りたかっただけなんだなぁと。
ノスタルジーとカタルシスを追う生き方は好きではないのですが、世界で最もクリエイティヴな仕事をした人が目指したモノというのがコレというのは、ある種大変興味深いところです。