レバ刺風蒟蒻考

〈レバ刺し風蒟蒻〉なるものを冷やかしにemixが買ってきたので食ってみた。レバー風に見える赤蒟蒻*1を辣油ベースのタレに漬けていただくのだが、まぁ、ネタ以上のシロモノではなかった。しかしこう感じたのには訳がある。
ボクはイミテーション(代用品)として出発したものがキッチュ(俗悪なまがいもの)を経てオリジナル(価値観を勝ち得たそのもの)にシフトしていく、という過程を眺めたり、そうやって成立した新しい価値観が好きだ。
例えば、東京ディズニーランドなどにある「シンデレラ城」がそうだ。TDRを代表する建造物であるシンデレラ城は価値観としては完全にオリジナリティを備えているが、元々はドイツにあるノイシュヴァンシュタイン城にヒントを得て作られたものだ。ウォルト・ディズニーのイメージに余程しっくりきたのであろう。比べてもらえれば一目瞭然だが、ある一方から見ると笑える程似ている。そういったしかし、そのノイシュヴァンシュタイン城だって、ルードヴィヒ二世がワーグナーの世界観に陶酔して19世紀に建てられた中世城郭〈風〉建築物だ。
今やシンデレラ城もノイシュヴァンシュタイン城も次々と価値観のパラダイムシフトが起きて、オリジナルそのものとして成立しており、その輝きを放っている。しかしその価値観を作る多くの原因は実は作り手ではなく、受け手の方である。受け手の多くが「それをオリジナルと認め」なければキッチュか、その前にイミテーションに終わってしまう。
第二次大戦後、豚のソーセージのイミテーションとして出発した魚肉ソーセージを未だに「豚がねぇから魚の方で我慢するか」という理由で食べる人はいないだろう。コピー食品と言われるジャンルの中でも独自の価値を確立させた数少ない食品である。
刺身蒟蒻も然りである。刺身のイミテーションが出発点なのだと思うが、蒟蒻の風味を最大限に活かした食品の一つとして独自の地位を確立している。だからこそネタとはいえ〈レバ刺風〉を敢えて謳ったのが残念。辣油ダレでいただく刺身蒟蒻として売ってくれれば(色も赤い必要はない)、普通に刺身蒟蒻として美味いのに、これでは消えるのも時間の問題。
でも〈レバ刺風蒟蒻〉みたいに元々オリジナルとしての地位を確立していたにも関わらず、粗悪なイミテーションに成り下がってるモノって世の中多くないですか?

*1:滋賀名物なのだが、これは生食用なのだろうか