ボツに育てられる。

仕事の性質上、ラフデザイン(デザイン案)を複数提出するのですが、選ばれるのは最終的に1案だけですし、ラフデザインを提出した後でその企画自体がなくなることも、まぁ、ある訳です。
本の装丁の場合、僕は平均して3案提出するから、3分の2のアイデアはボツになります。今まで2000冊くらい装丁してきたから、少なくとも4000案はボツになっていることになります。CDも100枚くらい作ったから200案はボツ、公演フライヤはいくつ作ったか数えてないのですが、中には30案くらい出してやっと採用になるものもあります。上記の選ばれた案も、そこからブラッシュアップしていくので「決まったからそこで仕事が終わり」という訳ではないです。
「だったら最初から1発OKになるもの出せば1案で済むじゃない」「決めこんだ案以外は捨てラフ(手を抜いている)なんでしょ」と仰る方もいますが、それは見当違いで、いずれのアイデアもOKになって世に出しても構わないレベルを目指していますし、1つのお題から瞬時に3つアイデアを出せて一人前と師匠に叩き込まれました(私は瞬時には出せないのでまだまだ一人前ではないのですが、師匠は確かに即答でした)こともあり、実際クライアントや購入者のスタンスに立って場合分けをすれば3案でも少なすぎるほどです。(野球で考えれば3割打てれば強打者!)
では採用にならなかったアイデアや、企画倒れになったアイデアを制作するまでに費やした時間や資料や労力は無駄になったのかというとそれも全く違って、むしろ、ボツ案に僕は支えられているわけで、いわば、実戦しながら練習させてもらっているわけです。
で、今まで書いてきたことは何も特別な話でなく、デザイナーやイラストレーターやカメラマンにとっては割と当たり前な話ですし、演奏家や俳優やダンサーにとっても日頃のさらっている作業時間などと考えれば普通の話ですし、作曲にしろ、執筆にしろ、皆同じです。
何かを作る(創る)というのは、そういうことです。