ユートピア・ユーフォニア


小寺香奈さんのリサイタル終了。音楽家としての彼女の視座がいよいよ際立って現れてきた今回でした。《Discovery Euphonium》と題されたシリーズは云わば、音のユートピアを発見する旅なのですが、彼女が乗り込む(乗り込まざるを得ない)のは他ならぬユーフォニアムであり、その船自身にまだ見ぬ謎が隠されている訳です。
第2回目の旅を共にしたのはサウンドアーティスト・有馬純寿さんと学友・円能寺博行さん(ユーフォニアム)、そして変幻自在の声楽家・太田真紀さん。 客席を囲む巨大なスピーカー群と客席中央に設置されたコントロールセンター(有馬さんはここで演奏します)、舞台には曲毎に様々にセッティング変更される入力用のマイク。通常の管楽器のソロリサイタルとは全く違うスタイルでありながら、彼女の道程を知るものは全く自然な風景に映ったことでしょう。そして、そこから生み出される音楽・音像は、ユーフォニアムという「ある意味」完成された楽器のイメージを壊し・拡張していく行為です。
表現者というのは「対象を上手に再現できればOK」という訳ではありません。勿論自分の表現技術に伴う身体や機材のオペレーションを高度に取り回せることは大事なことですが、それが出来るのは前提でしかありません。やはりそこを超えて、観るもの・聴くもの・味わうものに新しいイメージや衝動を喚起させてこそ表現者足り得る。彼女が向かう旅には終わりがありませんが、彼女が紡いでいく海図は、後に続く者には、しっかりとした道として次の新たな旅へ誘う大切なアイテムになることでしょう。
さて僕の仕事は、昨秋から暮正月〜昨晩まで、小寺さんの「冒険の書第1巻」のブックデザインと「海図」のデザインサポートでした。具体的にはファーストCDとリサイタルデザインをほぼ同時に進行させていたのですが、小寺さんが初めて電話してきた日から今までを俯瞰する日々でもありました。昨晩の打ち上げの際にも少しお話しさせていただきましたが、あの日、昨晩のようなリサイタル開催を迎えることを僕は(彼女も)想像だにしていませんでした。人の生き様というのは面白いものです。