阿部先生

文化人類学者の阿部年晴先生の訃報を知る。僕が学んだ当時の埼玉大学の文化人類学教室は阿部年晴先生や加藤泰建先生など錚々たる学者陣であった。僕は大学の授業も出ずにイラストを描いたりトロンボーンを吹いてばっかりでチッとも人類学の勉強をしないダメ学生だったが、それでも阿部先生から受けた影響は大きい。
今でも何かについて深く思考を巡らすとき必ず、夕陽が差し込む人類学教室でのゼミの光景と阿部先生のシルエットが頭に浮かんでくる。
当たり前だと誰も気にも止めない事や逆に常識的ではないと一蹴される事こそ注意深く観察すること。物事に対して多面性と変容性を以ってアプローチすること。導き出す答えにセクシーさを失ってはならないこと・・・
二十歳そこそこの青二才が何を息巻いたところで指先で丸められて弾かれるだけだったが、それでもあの教室で、先生の眼の奥の光を少しでも覗くことが出来たのは幸運だったと思う。
心よりご冥福をお祈りする。
 
ところで全くの余談なのだが、後年、夢野久作「ドグラ・マグラ」を読んで、登場人物の正木敬之教授と阿部先生が、若林鏡太郎教授と加藤先生がオーバーラップして不思議な気分になった。つい先日も読み返していたのだが、やはりオーバーラップする。本人たちとは全然違うのになぁ ……ブウウウ…………ンン…………ンンン…………。