憧憬

澁澤龍彦 (ちくま日本文学 18)

澁澤龍彦 (ちくま日本文学 18)

ちくま日本文学シリーズの「澁澤龍彦」読了。大学*1の偉大な先達の著作を今の今まで放ったらかしにしていた自分に反省して読む。
しかし実に馴染む。大学の講義で好んで履修していた様な話題が次から次へと出てくる。西村清和先生や青山昌文先生、西原稔先生の講義を思い出す。当時のボクは人類学を専攻していたし、哲学や音楽と美術を主軸とした、かなり歪んだジャンルの美学への憧れがあった。狂おしい程に完璧な美や破壊的に優れた(能)力というのは、そもそも一般倫理的には破綻しているし、何かを大きく失っている、もしくはバランスを失う程に肥大化してる・・・それは社会にはタヴーなので表層的には排除されているが・・・現実はそういう美が時代を引っ張っている・・・。それに気付く事、その列に加わる事が全うな精神と信じて疑わなかった。しかし、その思いをまとめられないでいた。すっと筋を通してくれる論理に出会わなかった、というか、あるのに見ていなかった。それが澁澤作品だった。
商業デザインという仕事はともすると予定調和に向かいがちである。デザイナーとして先を見たいという創造心と、世の中に多く受け入れられるモノを送り出さねば生活が成り立たなくなるという不安・・・常にその狭間で迷い続けている。
では、まだ見ぬ美しさ(異形の次なる美)への憧憬を、どうすれば社会的・流行的に受け入れてもらい易いカタチへメタモルフォーゼ出来るか・・・。しかし、そもそも自分の頭の中自体が予定調和に埋め尽くされて凍り付いていないか・・・。
自分を鍛えねばならぬ、自分を追い込まねばならぬ、もっと作らねば、もっと観なければ、もっと聴かなければ、もっと体験せねば・・・。そして凡庸さにカマケル自分に常に刃を突きつけて行かねば・・・。
澁澤作品の一つ一つを読むにつけ、そういって襟を正すのである。

*1:旧制浦和高校≒埼玉大学文理学部≒教養学部