焦燥とロマン


イラストレーターの引地渉くんの個展「焦燥とロマン」を観にHBギャラリーへ伺いました。
引地くんは、実は今日が物凄く久しぶりの再会でした。彼は第一線で活躍するイラストレーターの一人ですが、仕事を通じて、でなく、大学の同級生として21年前に知り合ったのです。ボクたちの出会った大学は美大などでなく、ごく普通の国立大学(埼玉大学)、しかも学部は教養学部という世にも奇妙な学部です。人文系で皆好き勝手に勉強するところです(と書くと語弊があるけど、まぁ遠からずだと思う)。その頃は二人とも何者でもなく、ただただビンボーくさい世間知らずの若者でした。最初の頃は二人とも首都圏に出て来た田舎者同士ということもあり、他の同期の仲間たちとツルんで根拠のない希望に燃えたキャンパスライフのはしりみたいなものを楽しんでいましたが、そのうちそれぞれ打ち込むモノが出来たためか、学年が上がるにつれ、ときどき廊下ですれ違う程度な感じになっていました。
ボクは4年生のときに就職活動に失敗したので、もう1学年多く在学しつつ3年生のときからイラストを描きはじめていた雑誌の編集プロダクションのアルバイトをしていたのですが、引地くんは4年で卒業後セツモードセミナーなどに通ってイラストの勉強を本格的に始めていたようです(今思えば、卒業式前に会ったときに「学校に入り直す」みたいな事を言ってた気がする)。
で、十数年お互い何をしているかも知らずに過ごしてきたのですが、今年になって何かのきっかけで(何がきっかけか忘れた)彼がイラストレーターとして活躍しているのを知ったのです。驚きました。だって同じ大学を出た同期の知り合いで、よく似た仕事をしている人がいるとは思ってもなかったので。早速連絡を取り合い、それから某社で装丁の提案を頼まれていたので彼の作品サンプルを借りてラフデザインを制作したりして再びお付き合いが始まりました。
それで今回の個展です。会期は一週間程ありますが、スケジュールが合うのが初日の午前中しかなかったので、彼に一応伺える時間を予告しておきましたら、有り難い事にちゃんといてくれたのです。
仕事では先行してやりとりをしていましたが、リアルに会ったのは17年ぶりくらいです。その間にお互いが何をしていたのか、今どうしているのか、という話で持ち切りでした。二人とも大学で美術の勉強をしていませんでしたが、節目節目で色んな出会いに助けられてここまで来たんだなぁとシミジミしましたし、またこうして同じ仕事をする仲間として再会出来たことを大変嬉しく思いました。
彼の作風は古紙などの素材を用いた平面や立体のコラージュ作品を中心に展開してますが、今回の個展では、彼が普段得意としている色彩感覚をグッと押さえ込み、焼けた古紙の風合いなどを生かした「モノトーン風」の作品群を展示しています。
彼自信が福島の出身ということもあり、今年おこった様々な出来事に対する思いが現れていますが、個展のタイトルにもあるように「焦燥」のみでなく「ロマン」が同居しています。破壊された常識や人の想いに対する焦りや怒りを乗り越えて、新しい概念や生命を持った時代が生まれゆくだろうという、彼のロマンを感じました。
これからも互いに頑張っていこうと誓い合ってギャラリーを後にしました。
(写真は購入した彼の作品を撮影したポストカード)