「好き」と「得意」

多くの人がやってて楽しいと思うことは、きっと商売にならない。
殆んどの人がするのが面倒くさいと思うことが商売になる。
ボクはよく「好きなことを仕事に出来て羨ましいですね〜」と言われる。「ハハハ、そうですね〜」と答えておくが、実は少し違う。「好きな事」というより「得意な事」なのだ。そしてそれは皆にとっては大層面倒くさい事なのだ。
では「得意な事」は「嫌いな事」か、と言われるとそうではない。どちらかというと好きな場合が多い。でも「かなり嫌な」懸案が回ってきても「得意」だからこなせるのだ。
ボクはデザイナーだ。限られたスケジュールと予算で、その商品を購入する人や、その商品を消費者に提供するクライアントを満足させるデザインを制作するのが仕事だ。自分が好きなデザインを押し付けるのが仕事ではない。これは大変面倒くさい仕事である。もちろん好きな内容の仕事も多いが、ちっとも興味がないものも沢山ある。実際のところ半分以上がそうだ。中には違和感さえ抱く内容だってある。でもそれが自分の良心に反しない限りは仕事として成立するのだから引き受ける。親身になってやる。それだって人より得意なのだから上手くやる自信はある。
一方、ボクは音楽が大好きだ。楽器を演奏するのも大好き。でも音楽は「苦手な事」なのだ。もうトロンボーンを手にして四半世紀が過ぎるというのに、ろくなソロも吹けないし、音感もリズム感もない。指揮棒の師匠でもある近藤久敦さんには学生の頃「お前には才能がない」と太鼓判を押された。でも好き。音楽なしでは生きられない。「下手の横好き」とはよく言ったものだ。でも苦手だから「好きな事」さえ上手くはやれないのだ。
人間、ここを見極める必要がある。好きなだけで人より得意ではないことは商売にしない方がいい。世の中自分より上手くやれる人は沢山いるんだし、裏返しで大嫌いな事になる可能性が高い。ハイリスク・ハイリターンではご飯を食べていけない。
そんなに好きでなくても人より得意な事であれば、それは商売にすべきだ。一歩引いた目で物事を判断できるから、余程の事がない限り失敗しないし、失敗はストレスにならずに経験値になる。
もっとも「好きな事」と「得意な事」が一致するのが一番だとは思うが、それは天才の出現を意味する。