従兄

音信不通になっている義理の従兄を探しに伯母と義母が上京してきた。ボクは彼と会った事がない。ずっと前に伯父伯母とケンカして家を飛び出てったきり音信不通なのだ。伯父の葬儀にも参加しなかった。紆余曲折を経てどうやら音楽関係の仕事をしているようなのだが、これも(実は密かに共通の知人を介して連絡を取り合っているらしい)従姉から聞いた話を、伯母と義母を通して教えてもらっているので結局何をしているのかサッパリわからない。従兄と同姓同名同年代で、結構活発に活動しているキーボーディストがいるのが、どうも違うらしい。なにしろ彼の名前は名字も名前も全くアリキタリなのだ。
まぁ、そんなこんなで伯母が従姉(つまり娘ね)を通じてやっと聞き出した居場所にemixがクルマで連れて行くという手筈になった。本人たちは用事が済んだら川越で芋料理が食べたいだの言っているので、ちゃんと生きてることが分かった今はさほど深刻でもないらしい。
伯母は犬が苦手なのでウチには寄らないだろうとemixが言っていたので、ボクは朝からスタジオで締切り仕事に没頭していた。気がつくと昼をとっくに過ぎて夕方になろうとしていたので、のんびりカップラーメンを作っていたら、何とemixが義母と伯母を連れて帰ってきた。
まったくこっちは無防備だったのでカップラーメンを義母に見られ「あんた何それ、今頃お昼ね!」って叱られるし、犬がワンワン吠えて伯母もビックリしちゃって現場は騒然とした。あちゃー。
しかし、しばらくするとmittenも伯母は我々の家族だと分ったらしく大人しくなってしまった。伯母も珍しくmittenに馴れてしまったようで「かわいいねぇ」と言いながら、リビングで珈琲を飲んでくつろいでいる。ちょっとホッとしたのだが、来るとは思ってなかったのでお客用の茶菓子すらなく、たいへん大人としては無粋なモテナシになってしまった。従兄には案の定会えなかったらしく、川越で遊んで来たとのことだ。お土産に芋けんぴ(こちらでは芋かりんとうって言うん?)をもらった。
一服して帰り際に義母と伯母はスタジオを「へぇ、これがアンタの仕事場かね」と覗いていった。emixがイロイロとボクの仕事の説明をして、義母も伯母もスゴイネェとは言うのだが、具体的にピンときていないようだ。「こういう部屋でお金が儲かるもんなんだねぇ」と不思議そうな顔をした。
確かにPC機器とオモチャと雑多な資料だらけのこの部屋は、彼女たちの目には子供部屋に毛が生えたくらいにしか見えないだろう。実際そんなもんだしなぁ。まだ見ぬ従兄も、実際彼女たちに会ったら似た様な反応をされるのではないかと思った。
なんだか、ボクも会ってみたくなった。